あれから左之助さんは『かまいたち』の原理を聞いても余り分からなかったらしく、直接石動雷十太の太刀筋を見に行くと神谷道場に泊まり込んでいる。
その付き添いとして私も一緒に神谷道場にお泊まりしているけれど。石動雷十太と行動を一緒にしていた男の子の塚山由太郎と明神君は競うように竹刀を振るって鍔迫り合いを繰り返す。
原作では石動雷十太を師事しているものの、塚山由太郎は稽古を受けていなかったけど。どうやら彼は稽古を受けているらしく、まだ秘剣を授かることは出来ていないが、真古流の基礎は使えるとのことだそうだ。
「面ッ!!」
「胴ォ!!」
明神君の鋭い踏み込みと同時に放たれた速い面を塚山由太郎は開き足で避け、左薙ぎの胴を打った。「一本!」と叫ぶ神谷さんの言葉で一礼し合った二人は正眼に竹刀を構えて、また向かい合う。
ほとんど剣術の稽古を始めた時期は同じの二人はお互いを高め合えるライバルに成り得る相手だ。左之助さんは左之助さんで「全然来ねえな、その道場破り」と退屈そうに緋村剣心と将棋を指している。
「だあぁぁーーーっ!!一体、何回やるつもりだ!?いい加減に負けを認めやがれ!」
「まだだ、お前に勝ち越せてない!なにより雷十太先生の真古流は負けないんだ!」
そう言い争う明神君と塚山由太郎に神谷さんは困ったように溜め息を溢す。通算二十試合、明神君は十三勝、塚山由太郎は七勝という戦績だ。
左之助さんや緋村剣心のいる道場で稽古している分、明神君に軍配が挙がるのは仕方無いのかも知れないけど。塚山由太郎の反骨精神というか、あの負けず嫌いは中々に筋金入りだと思うわ。
「失礼致す!!!」
ビリビリと響く大声に左之助さんはビックリして、将棋盤を引っくり返してしまい、負けそうになっていたのか緋村剣心はほっとしながら道場の出入り口に視線を向けると、そこには石動雷十太が佇んでいた。
「あっ、雷十太先生!」
「待てよ、様子が変だぜ」
「何を言って……先生?」
ギラリと鈍く光を反射する刀を抜く石動雷十太に左之助さんは喧嘩すると予想し、立ち上がろうとしたが、緋村剣心に手で制止される。
「あの日、あの道場で我輩の秘剣『飯綱』を紙一重とは云えど避けた貴様が、我輩の秘剣を体得したとなれば話は別である。今一度勝負を挑ませて貰おうか。此度の申し込みに否は無い…!」
今回は私の説明を聞いていた石動雷十太を支持する人達の告げ口による襲撃みたいだ。チラリと神谷さんを見たら「あれは剣心が聞いたことだから大丈夫よ」と優しく言ってくれた。
ありがとう、神谷さん!
「左之、みんなを頼むでござる」
「またお守りか。まあ、別に良いが」
緋村剣心の言葉に従って、道場の隅に移動していた私達のところに左之助さんもやって来るなり、脚が竦んで腰が抜けている私の太股の上に頭を置いた。
「左之助、あんたねえ」
「嫁の膝枕は旦那の特権だ!」
左之助さんの行動に呆れる神谷さんに食い気味に言い返した左之助さんに私も呆れながら、彼の頭をペチペチと叩いて真面目に座るように訴える。
「お前の知り合いって変なのばっかだな」
「やめろ。本気で悩むだろ」
そんな私達のやり取りを見ていた明神君と塚山由太郎は心底面倒臭そうに私達を指差して酷いことを言う。そこまで変なことしているつもりはないのよ?
「薫殿、合図を」
「えっ、うん。任せて」
「雷十太、今回は一本勝負でござる」
「無論、そのつもりだ!」
緋村剣心は逆刃刀を抜き、無形に構える。その対面に立つ石動雷十太は真古流と名乗るだけあり、基礎を突き詰めた正眼に段平に見える幅広の刀を構える。
「すう……始めっ!!」
神谷さんが突き上げた手を振り下ろした瞬間、先手を取ったのはやはり神速の速さを有する飛天御剣流の遣い手たる緋村剣心だった。
神速の踏み込みと共に下段に構えた逆刃刀の鎬に手の甲を押し当て、跳び上がりと同時に切り上げの剣戟。飛天御剣流「龍翔閃」を振るい、緋村剣心は石動雷十太の顎を狙う。
「甘いわァ…!!」
「なにッ!?」
その攻撃を石動雷十太は予測していたのか。凄まじい気迫と唸るような声を上げ、龍翔閃に振り下ろしの幹竹割りにて飛天御剣流の剣戟に対抗し、強烈な一撃で緋村剣心の剣戟に競り勝った。
「なんで!?」
「よく剣心とアイツの背丈の差を考えてみろ。喧嘩も剣術も理屈は同じ、
緋村剣心が競り負けたことに困惑する神谷さんに左之助さんが分かりやすく解説する。膝枕の格好じゃなければ、もっと様になるのに勿体無いな。
そう思っていると緋村剣心は逆刃刀を霞の構えに変更し、真っ直ぐに石動雷十太へと突っ込んでいく。あの体勢で放てる剣技の数は少ない。
「負けると知り、血迷ったか!」
「残念だが、拙者の勝ちでござるよ」
背中に刀の反りを押し付けるほど真後ろに引き絞るような上段の構えを取った石動雷十太は真古流の秘剣たる真空波の剣戟を生み出す『飯綱』を迫り来る緋村剣心に向かって放った瞬間、凄まじい突風が道場内を駆け巡り、緋村剣心の右腕の二の腕に刀傷が出来る。
しかし、崩れ落ちたのは石動雷十太だった。
「左之助さん、最初から最後まで見えてましたよね。教えて下さい」
「最後の所は剣心が『かまいたち』の剣を躱して、あの野郎の後頭部に逆刃刀を叩き込んで意識を完全に刈り取っただけだ」
「剣心、さっきのやつ教えてくれ!」
「今のは飛天御剣流の龍巻閃でござる。些か強引な返し技だったけれど。雷十太の拙者を斬るという全身全霊の一撃に懸ける力みに合わせて放ったでござるよ」
そう緋村剣心と左之助さんの二人は簡単そうに言っているけど。神谷さんは「ちょ、ちょっと普通に出来ますみたいな態度取らないでよ」と文句を言う。
「……ぐっ、ぬうぅ…我輩は負けたのか?…」
昏倒した筈の石動雷十太は後頭部を押さえて立ち上がり、塚山由太郎も慌ただしくふらつき、今にも倒れそうな彼を支えるように手助けした。
「次に勝つのは雷十太先生だからな!」
「ケッ。次も勝つのは剣心だよ!」
さっきまで勝負していた二人の再戦を勝手に決める明神君と塚山由太郎のやり取りに私はほっこりと和みつつ、どういう訳なのか悪徳に溺れなかった石動雷十太に少しだけ興味を抱くものの、この世界は現実なのだからズレることは当たり前の事だと再認識する。
「帰るか、糸色」
「あっ、はい。また、会いに来ますね」
「えぇ、糸色さんもまたね」
自分も参加したかったのに蚊帳の外だったことに不貞腐れる左之助さんを可愛いなと思いながら、神谷さん達に「またね」と挨拶を交わして神谷道場を出る。