「左之助さん、左之助さん」
トタトタと少しだけの小走りだというのに息切れを起こしながら左之助さんに駆け寄り、お弁当の重箱を差し出すと「今日は来てくれねえのか?」と悲しげに彼は子犬の様な視線を向けてくる。
可愛いですけど、今日は検診なのでダメです。
「しとりが作ってくれたお結びも入っていますから、落ち込まないで下さい。ほら、しとりも行ってらっしゃいしようね」
「んむぅ……いってらっしゃあ……」
「目は擦るなよぉ?」
「んぅ……」
うつらうつらと頭を揺らすしとりを抱き上げ、優しく抱き締めた左之助さんはそのまま交易場まで行こうとするので、長谷川君と井上君に注意され、久保田さんに「社長、そんなんだから」と言われている。
ウチの旦那様は優しいんです。しとりを大事に想ってくれて、私の事を愛してくれる、とても素敵な人なんですけど。今はしとりを仕事場に連れていくと年下の三人に駄々を捏ねている。
それでいいんですか、左之助さん。
「しとりは置いて行って下さいね」
「……検診日だもんなあ……」
「お仕事が終わって迎えに来てくれるだけで私達は嬉しいですから、みんなと怪我せずに安全に帰ってきて貰えると嬉しいです」
「景ちゃんさん、やっぱり優しすぎない?」
「分かるけど。そういう性なんだよ」
「まあ、飯は美味いからな」
「アンタはいっつも食べ物ね」
そうワイワイとやり取りを続けながら歩いていく三人を追うように左之助さんも歩き出したと思えば踵を返して、そのまま私を抱き締めて接吻をしてきた。
「……えっ、ん?……」
「今日も頑張ってくるから、安静にな」
「あ、は、はい?」
…………突然の出来事にフリーズしてしまったけど。他の子達も見ているのに、あんなことをするなんて左之助さんは助平です。
全く、もう。
「Good Eveningと言っておこう。しかし、私も妻とは円満の家庭を築いているつもりだが、相も変わらず左之助君の執着心と粘着愛の強さは凄いものだね」
「ドクトル、い、いつから?」
「ベーゼをするタイミングだが?」
この人はタイミングが良いのか悪いのか本当に分からない人ですね。まあ、いつものことですから諦めましたけど。けど、そういう事は言わないのがお約束です。
ドクトル・バタフライを家の中に招き入れ、個魔の方にしとりを預けて、私は寝室で診察をしてもらう。お医者さんカバンの性能は疑っていない。でも、医学に精通するドクトル・バタフライ本人も実際に診察し、私の身体の不調に適したお薬を配合してくれる。
本当に有り難く、助かっています。