石動雷十太と緋村剣心の激闘は緋村剣心の勝利に終わりはしたものの明神君と塚山君の仕合はあの日からも、ずっと続いている。
そして、緋村剣心に敗れた石動雷十太は今一度強さを求めて真古流を一度解散し、塚山君への書き置きと真古流の指南書を残して塚山邸を離れ、次こそ緋村剣心を倒せる『飯綱』を越える秘剣を開眼するために山籠りしているそうだ。
「次は負けるかもな」
「その時はその時でござるよ」
ズズッと食後のお茶を飲む緋村剣心と給仕の仕事をサボっている左之助さんの会話を聞きつつ、元気にアルバイトに励んでいる明神君を眺める。
彼は逆刃刀を買いたいという目標のために毎日のように「赤べこ」で一生懸命に働いて頑張るのは、とっても良いことだと私は思う。
「左之助さん、ちょっと良いかしら」
「……ツケは返済し終わったよな?」
「えぇ、キッチリ返済してますけど。今回はお使いを頼みたいんですよ」
「お使いって弥彦が居るだろ」
そういえば錦絵と相楽総三の話は石動雷十太の後日に起こる事だったと思い出す。───けど。いきなり「赤べこ」の敏腕店主たる妙さんのお使いの相談に割り込むなんて不自然すぎるし、左之助さんも昔の仲間に会えるのは嬉しいわよね。
今回も黙っておこう。
「伊庭八が二枚だな。糸色、ちょいと行ってくる」
「はい。道中は気を付けて下さいね」
「おう」
そう言うと「赤べこ」を出ていった左之助さんを見送り、ふと左之助さんが財布を持たずに出ていったことに妙さんが気付き、「やっぱり左之助さんは糸色ちゃんが居らんと大変やね」と呟いた。
喧嘩屋家業を畳んでいる訳じゃないけれど。
もはや振るうことの出来ない半壊状態の斬馬刀に変わる武器を持っていない分、今なら喧嘩屋の斬左に勝てると思っていた破落戸の襲撃によって左之助さんは喧嘩殺法に磨きが掛かり、今はもう喧嘩を売る相手がいなくなってしまったのだ。
「剣心、左之助の勘定が足りねえぞ」
「おろ!?」
明神君の言葉に自分の財布の中身を見て冷や汗を流す緋村剣心に思わず「貴方も抜けてるところが多いですね」と苦笑しながら言い、お勘定を立て替えてあげる。
「すまないでござる、糸色殿。返済の目処が立ったら直ぐに立て替えて貰った分はお返しするでござるよ」
「いえいえ、いつも左之助さんと仲良くしてくれるお礼ですよ。左之助さんも緋村さんに会えると楽しそうですから、これぐらいさせてください」
「…では、お言葉に甘えさせて貰うでござるよ。妙殿、少しの間だけ拙者を雇ってほしいのだが」
「ええですよ、今日からでも」
トントン拍子で「赤べこ」にアルバイトとして就職した緋村剣心を見送り、私はお金を忘れている左之助さんを追いかけることにした。
多分、お使いの錦絵の事は忘れていると思うから。