「…っ…ん……」
もぞりと部屋に射し込む陽射しを避けるように身体をねじり、うっすらと目を開けるとボヤけた世界が見えるだけ、眼鏡を探すために手を動かし、フレームの形に違和感を感じながら眼鏡を掛けるとレンズがひび割れ、少しフレームが歪んでいた。
「それに、ここは…」
ドクトル・バタフライの診察を受けるときに使っている研究所の一室だ。どうして、ここに私はいるのだろう?と首を傾つつ、襦袢のみを着ていることに気が付き、寝ているときに運び込まれたのかと溜め息を溢す。
また、左之助さんに迷惑と負担を掛けてしまった。
「おや、目が覚めたようだね」
「ドクトル、あの私に何が?」
「まずは落ち着きたまえ。───いや、そう言ったところで自分の知らぬ間に起こった出来事は気になるものか。率直に言ってしまえば君は睡眠中に吐血して、そのまま心肺停止して死にかけていたのだよ」
「……わ、わた…え?…」
私はさっきまで心肺停止していた。
えっ、もはやそれはただ普通に死んでいただけでは?と困惑する私に向かって「左之助君の事を思うなら素直に話して上げなさい。」と、そうドクトル・バタフライは言ってくれた。
そう、ですね。
やっぱり身体の事は左之助さんに伝えるべきで、お母様とお父様にもお伝えしておかないといけないことですからね。少しでも重荷を手放すなら尚更のこと。
「ドクトル、左之助さんは来てるんですか?」
「もう三日も病室の外で寝ずの番だ。全く非効率な……いや、愛ゆえに君の事を心配しているのか。私も妻の風邪を看病するときは、ああだったからね」
そう言うと病室の扉を開けたドクトル・バタフライは背中を向けたまま、親指をピコピコと動かしてきた。それはもう良いですから、はしたないですよ!
そんなことを思っていると、隈の凄い左之助さんが入れ替わるように病室の中に入ってくるなり、私の肩を掴んでベッドに押し倒してきた。
「……何で、黙ってたんだ。オレはそんなに頼りねえ男なのか?いや、そりゃあそうだよな。お前を守りたいのに何にもしてやれねえ……」
「左之助さんは守ってくれていますよ。悪いのは私です、病気の進行もドクトルに、お医者さんに治してもらうまで隠しておきたかったのは私の不安からなんです」
「不安って…」
「どれだけ左之助さんを愛していても、こんな心臓と肺に病気を患っている女なんて邪魔だから捨てられんじゃないかって、すみませんでした」
「ふざけんなッ、誰がお前を捨てるか!お前が、景が居なけりゃオレはずっと独りだった。ごろつき長屋にお前が来てくれて、オレの相楽隊長を失くした悲しさと怒りをぶつける憂さ晴らしだけの人生に光が戻ったんだ…」
私の肩を掴んでいた手の力が緩み。
ボタボタと左之助さんの目から溢れ落ちる涙を顔に受け止め、私は彼の身体を抱き締めて泣きじゃくる左之助さんの頭を優しく撫でてあげる。
「光が戻ったのは私もです。世界が怖くて、人も物事の全てが恐ろしくて、何もかもを避けていた私を連れ出して、幸せにしてくれたのは貴方なんです。だから、私は貴方がずっとずっと大好きなんです」
「オレも、オレもお前が大好きだよ」
フフ、嬉しいなあ……。
私、とっても幸せですよぉ……。