左之助さんに会いたい。
そう思った事を口ずさみそうになる口許を押さえて、ぼんやりと病室の中に用意された三畳間の空間に座って個魔の方に絵本を読んで貰っているしとりを眺める。
やはり私の娘は天使かもしれない。
絵に描いて残したい。写真を撮って残したい。そういう欲求を押し付けるのは悪いことだけど。未来の子孫にもしとりの可愛さを教えてあげたいのです。
「ん!ももたろ!」
「そうね。私も桃太郎が桃から生まれた話は未だによく分かっていない。母者に聞けば、何か分かるかも知れないけど。眠っているからまた後でだ」
「……母ちゃん、げんきになる?」
「嬢ちゃんが良い子のままでいてくれたら治るさ。ついでに妖逆門に参戦する意思を示してくれれば、私も嬉しい気持ちになるよ。すねこすりもいるからね」
あの苦難の冒険を強いるのはやめて欲しい。でも、しとりが行きたいなら背中を押して、応援してあげるのは母親として当然のこと。
寂しいけれど。仕方ない事だから。
「それと母者は狸寝入り下手すぎるぞ」
「……狸寝入りではないんですよ?目が覚めたらお話ししていたから黙っていようと」
そう言うよりも先にベッド脇にやって来たしとりが嬉しそうに桃太郎の絵本を差し出し、椅子を使って私のベッドに登り、膝の上に座ってきた。
また、少しだけ大きくなりましたね。
「すくすくと元気に育ってね」
「ん!」
その前に、この「はい」や「うん」に相当する「ん」という返事は治すように教えるべきか。それともアイデンティティーとして残しておくべきか。
しとりが可愛すぎて選べないですね。
そういうものなのだと割り切れば、さらにしとりの可愛さにトキメキを感じてしまう。
「しとりがげんきだったら、母ちゃんげんき?」
「……フフ、そうですね。しとりが大人になって元気に生きていたらお母さんは元気にですよぉ?貴女は私と左之助さんの大事な宝物ですからね」
ゆっくりとしとりの頭を撫でていると視線を感じ、窓の外に顔を向けると汗だくになった左之助さんが病室を覗き込んでいるのが見えた。
「何をしているんですか。左之助さん」
「昼飯、一緒に食おうぜ」
そう言って左之助さんはお弁当を取り出し、明治時代の代表的な日の丸弁当を渡してくる。何気に他人の作った食事を食べるのは久しぶりですね。
「ん!くおう!」
「しとり、食べるですよ。個魔の方もどうぞ」
「私にもあるのか」
嬉しそうに笑ってお弁当を受け取った個魔の方は三畳間の空間に移動し、ちゃぶ台にお弁当を置き、しとりもそちらに向かい、私は左之助さんに運んで貰う。
歩けるけど、安静にしないといけないそうです。