ようやく歩くことを許して貰え、しとりと研究所内部の廊下を歩きながら、久しぶりに会えたドンと親分の頭を撫でてあげる。
……私が洗っていたときよりキューティクルの艶と毛並みが良くなっているわね。ドクトル・バタフライが代わりにお手入れしてくれたのかな。
「ん!しとりもなでて!」
「フフ、良いですよぉ?」
よしよしとしとりの頭を撫でてあげると嬉しそうに目を細め、私の手のひらに頬っぺたを押し当てて、ゆっくりと何かを確かめるみたいに目を瞑った。
「あったかいね」
「ありがとう。でもね、しとりのほうがとっても暖かいわ。お母さん、どんなに寒くてもしとりが一緒に居てくれたら安心して眠るもの」
「ん!きょうもいっしょねよ!」
「えぇ、一緒に寝ましょうね」
そう言ってしとりの事を抱き締めて、手を握って研究所の廊下を歩いていると身体から一気に力が抜け落ちる感覚に襲われ、地面に倒れそうになる。でも倒れる寸前に親分や個魔の方が受け止めてくれ。
地面に倒れることはなかった。
今のは、根こそぎ奪い取る様な感覚だった。
「……地下に誰かいるの?」
ポツリと私が呟いた瞬間、しとりに手を引かれて研究所内部の廊下を進んでいたその時だった。しとりが地下へと通じる場所を指差す。
え、ここに行くの?
しとりを見たら既に階段を降りていく姿を見ることしか出来ず、慌てて追い掛けるも一段を降りる毎に身体が鉛のように重くなり、フラフラと立つことも出来なくなる頃には、もうしとりの姿が見えなくなっていた。
「誰か、そこにいるのか」
「ん!しとりいる!」
「……子供が来るところではない……」
それは、聞き覚えのある声だった。
「(ヴィクター?……いえ、疑問に思うことはない。ドクトルが錬金術を知る切っ掛けを与えたのは、しとりと話しているヴィクター・パワード本人なのだから)」
ゆっくりと重たい身体を引きずって巨大なフラスコに話しかけているしとりに抱きつき、ゆっくりと蛍火色の綺麗な光を発する彼を見上げる。
「こ、こんにちは?」
「こんにちは、知らぬ少女よ」
「少女……いえ、あの、二十歳です」
「ん!しとりの母ちゃん!!」
「その小さな身体でか!?」
さっきまで厳格な雰囲気だったのに、私が人妻で母親だと知ったら物凄い反応をしますね。いや、海外だと結婚の年齢はもう少し高かったから、ビックリしてしまうのは仕方ない事なのでしょうか。
それにしても居るなら銀成市だと思っていたのですが、もしや錬金戦団を撹乱するために北海道へと拠点を移していたのでしょうか?