「久方振りだな、人の子よ」
「サンピタラカムイ様、どうしてここに?」
ぼんやりと現れた頭の大きな老人の神様に驚きつつ、彼のことを興味津々の眼差しで見上げるしとりをいつの間にかサンピタラカムイ様は抱き上げていた。
「おじいちゃ、おめめおっきい!」
「うむ、穢れを知らぬ無垢な善き
「は、はい!」
「私の神酒を子を守ることに費やしてしまっているが、お前の身体は朽ちても良いのか?それとも子と共に死ぬことを選ぶつもりか?」
その言葉に声が詰まった。
神酒の身体の強さを上げる効能を私は子供を守るために費やしてしまっている。そう言われればそう言う風に願っているのも事実であり、偽る必要の無い真実です。
「子供を大事に想うのは母として当然です。そこには人も妖怪も神様も関係なんてありません、大事なやや子が健やかに生きてくれれば私は幸せなんです」
これが、私の偽りの無い本心だ。
「うむ、善き心だ。呑め」
「え゛っ」
私の言葉に納得してくれたサンピタラカムイ様は右手を突き出して、一升瓶を押し付けてきた。しかもたった一言の「呑め」という言葉と一緒にである。
「お、お酒は余り得意では……」
「母ちゃん、ちっちゃいのでのんだらいっぱいねちゃうの!」
「御猪口でも苦しげだったが、よもや人の子は神酒を呑んで体調を崩すのか。しかし、ススハムは酒樽を七つほど飲み干して尚も要求してきたが」
あの人は強くて健康ですからね。
「致し方無い。娘御に」
「母は三歳の子供に呑ませるのは許しませんよ」
「やはり人には困ったものだ」
まあ、未来の世界だと開拓を進めて妖怪を封印する祠や山を切り開き、妖怪の住み処を奪って自分達は悪くないと言い張ってしまう人も少なからず居ます。
そういう大人にしとりはならないでしょうが、成人も迎えていないのにお酒を呑ませるなんていうのは母親として絶対に見過ごすことは出来ないんです。
「ん!おじいちゃ、おひげ!」
「毛深くはある」
確かに髪の毛のように生えたお髭ですが、しとりはサンピタラカムイ様のお髭にも興味を惹かれ、モサモサとしているお髭に櫛を通している。
神様のお髭を手入れした櫛なんて下手な聖遺物より価値がありそうで怖いですね。ああ、お髭を三つ編みにするのはダメです、私がやってあげたのをしとりは見て覚えたんですか?
やはり、私の娘は天才のようですね。