久しぶりに帰ってこれた北海道の我が家は少し汚れ、台所は私が入院している間は一度も使われていなかったのか。少し埃が積もっている。
左之助さんはお料理が出来るはずですけど。
北海道の食事処を巡っていたのだろうかと想像し、納得しながらも濡らしたい手拭いで埃を拭き取り、いそいそと掃除を始める私を左之助さんもしとりも手伝ってくれたおかげで、台所と居間、寝室の掃除は早く終わり。
布団は物干し竿に挟んで天日干ししています。
「すまないな。景、退院したばっかりなのに」
「いいえ。大丈夫ですよ」
「ん!ぴかぴか!」
「そうですねえ」
のんびりと縁側に寝床を運び、その上で丸まっているドンと親分、その奥に見える中庭を眺める。穏やかで気持ちの良い時間です。
ふと中庭の真ん中に何が見えた。
「左之助さん、左之助さん」
「どうかしたか?」
「中庭に変なものが見えます」
「オレには何も見えないが、しとりは見えるか?」
「ん!にゃんこ!」
ねこ?
でもアレは猫というより犬にも見えるのですが?と考えながらも中庭に歩いていくしとりを遮るようにドンが跳ね起き、中庭に向かって全身の毛を逆立てる。
「どん?」
「しとり、下がりなさい」
ゆっくりと私はしとりの手を掴んで転ばないように後ろに引き戻し、ドンと一緒に中庭に唸り声を出すすねこすりの親分の睨み付ける先を見つめる。
しかし、その生き物は目視できない程の速さで中庭を出ていき、何処かに行ってしまった。一体、なんだったんでしょうか?
ドンと親分も逆立っていた毛を下ろし、警戒はしているものの寝床の中に戻ってしまった。この子達もかなり謎の生き物なんですよね。
「景はしとりと一緒に居てくれ」
「は、はい」
左之助さんの言葉に頷きながら居間を出て中庭に歩いていく彼の背中を見守りつつ、左之助さんが歩みを止めて足元にある何かを拾い上げた。
「黒い、毛か?」
そう呟く左之助さんの手のひらにあった黒い毛にも見えるものは風に乗って消えてしまい、最後まであの存在が何だったのかが分からなかった。
もっと目を凝らして見れば分かったのかも知れないけど。ドンと親分があれほど毛を逆立てて警戒心を顕にするということは、とても危険な存在なんでしょう。
「景、見覚えは無いよな?」
「一応、あれは動物だとは思いますけど。あそこまで素早く動かれると見ることは出来ないです」
「そうか。しとり、危ないものに近づくのは危ないから気を付けような?」
「ん!わかった!!」
「よし、偉いぞ」
「んへへ」
ワシャワシャと頭を撫でて嬉しそうに笑うしとりの頭を私も左之助さんと一緒に撫でてあげながら私は「ドンと親分にも守ってくれたお礼をしないとですね。ご飯を増やしましょうか?」と左之助さんに提案する。