某剣客浪漫世界で私は物書きをする。   作:SUN'S

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京都編
壬生狼の襲来 序


あれから数日ほど経って月岡津南の錦絵引退に嘆くファン達の悲しみも静まり、今は絵草紙屋のおじさんも平穏な商売を出来ている。尤も私の場合は月岡津南の抜けた穴を埋めるために描く人物を増やす羽目になったけど。

 

絵を描くのは楽しいから問題はない。

 

私が前世の頃から大好きな『うしおととら』の絵物語も子供から大人まで人気であり、たまに猫ちゃんに向かって「行くぞ、とら!」と言う子供を見かけたりする。粛々と私が前世から敬愛し、尊敬する大先生の作品を広めることができ、とても幸せな気持ちになる。

 

「糸色先生、少々宜しいでしょうか?」

 

「え?」

 

突如、私の事を名指しで呼び止める声に驚き、後ろに振り返ると紫がかった青色の襟詰制服を身に付けた、スラリとした長身の警官が、にっこりと笑顔を無理やり張り付けた様な微笑みを浮かべた男が立っていた。

 

この人を私は知っている。

 

かつて幕末の京都で本気の人斬り抜刀斎と渡り合えた数少ない剣客の一人にして、新撰組三番隊の組長を務めていた斎藤一が私の事をにこやかな笑みを浮かべながら見下ろしている。

 

「……えっと、何か用ですか?」

 

「阿呆が、まともに虚偽も使えんのか。瞳の奥の恐怖と驚愕の色が隠しきれていないぞ。しかし、会うのは初めての筈だが、その俺を見る目は俺の素性を知っている奴の目だな」

 

見透かすような言葉に身体が強張る。

 

最初に斎藤一が向かうのは神谷道場だって記憶しているのに斎藤一は私の目の前に佇み、その射貫くような恐ろしい眼光で私を睨み付ける。

 

「おい。俺から逃げようと思わないことだ。その強張った顔つき、僅かに身体を退いた姿勢、俺の得意とする技も当然知っているんだろう?」

 

一度、そうだと決めたら引かないのだろうかと目の前に立つ斎藤一に怯え竦み、ゆっくりと後退りする度、彼も一歩ずつ近付いてくる。

 

「ストップ!そこでストップして下さい!」

 

「すとっぷ?……嗚呼、外国語の『止まれ』か。抜刀斎の身辺を調査する際にお前の情報も集めていたが、やはり外国に精通している様だな」

 

斎藤一の言葉に墓穴を掘ってしまった事を悟り、逃げようとした瞬間、足が縺れて地面に転び、私が掛けていた眼鏡が何処かに飛んでいき、視界の全てがボヤける。

 

「め、眼鏡が…!」

 

「……ハアァ…こんなのが本当に必要なのか?」

 

「あっ、ど、ありがとうございます……」

 

「余り面倒事を起こすな」

 

少しフレームの歪んだ眼鏡を掛け直して、斎藤一を見上げると面倒事を押し付けられたと云わんばかりに顔を歪め、煙草を吸おうとして、すぐに煙草ケースに紙巻き煙草を戻して舌打ちした。

 

な、なんだか大変な事に巻き込まれる予感が…!

 

 

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