少し擦り剥いてしまったところにハンカチを当てて雑菌の侵入を阻止しつつ、簡易的な止血を行って私は斎藤一と一緒に神谷道場を目指して歩く。
斎藤一は左之助さんと違って、私の歩幅に合わせるなんて事はしてくれず、だんだんと呼吸が荒くなり、フラフラと足取りが拙く不安定になりながらも神谷道場に辿り着く頃には私の顔は真っ赤に茹で上がり、疲労感の凄まじさに玄関先にへたり込んでしまう。
「糸色!テメェ、人の女房に何しやがった!」
「止せ、左之…!ソイツはッ!!」
神谷道場の中にいた左之助さんが私の姿を見るなり、激昂し、斎藤一に向かって駆け出す。そんな彼を引き留めようと緋村剣心は手を伸ばす。が、彼の手は空を切り、左之助さんに届くことはなかった。
「うぉらっ!!」
「阿呆が。相手を見て挑め」
ゆらりと右手を突き出すように構え、左手を引き絞って無手のまま最強の片手平刺突技を放つ姿勢を取った斎藤一の拳打が左之助さんの繰り出した大振りな右拳より素早く彼の顔を捉え、カウンター気味に殴り飛ばした。
「左之、ごほっ、け、さん!」
慌てて吹き飛んだ左之助さんに四つん這いになりながら這い寄って安否を確認しようとしたところ、ぐるりと左之助さんは反動を利用して跳ね起きた。
「……ペッ。何者だ、テメェは」
道場の床に血反吐を吐いて、斎藤一を睨み付ける左之助さんの傍らに歩いてきた緋村剣心が静かに「アイツは新撰組三番隊の組長を務めた男、幕末の動乱に幾度となく戦った斎藤一でござるよ」と告げた。
「要するに人斬り抜刀斎の因縁の相手だろ。その斎藤一がなんで人の女房を怪我させて連れ回してるのか聞かせてもらおうじゃねえか!」
「さっきから女房女房と言っているが、貴様と其処の女はまだ祝言を挙げていないだろう。女房、オレの女、そう言ってソイツを縛り付けるつもりか?」
その言葉に私の身体は僅かに強張り、不安げに左之助さんを見てしまいそうになる。───けれど。そもそも斎藤一は見当違いしている。
「馬鹿野郎、オレは糸色を縛り付けるつもりなんざねえ。ただ、こいつがオレの側に居て、何にも怯えることなく笑ってくれるだけで良いんだ」
「左之助さん…!」
彼の言葉に思わず茹で上がっていた頭が更に熱くなるのを感じながら嬉しさの余り涙を流してしまう。
「も、もうコレ以上なの!?」
そんな私の方に手を添えて、ここぞとばかりに親指をピコピコさせ、ワクワクと期待を込めた眼差しを向ける神谷さんに「もう、もう!」と嬉しさと恥ずかしさを誤魔化すように私は神谷さんに向かって怒る。
「茶番劇を見るつもりはない。抜刀斎、俺の目的は最初から貴様、ただひとりだ。其処の女、糸色に関しては政府の命令を受け、仕方無く連れてきただけに過ぎん」
「その言葉を信じろってか?」
「貴様には聞いていない」
「んにゃろお!?」
「まあまあ、落ち着くでござるよ。斎藤、拙者と話したいなら日を改めてくれ。流石にこれ以上拙者の友人を巻き込んでの所業は許せない」
緋村剣心を探していたのは、原作の知識を覚えているから分かるけど。斎藤一が私を狙ってきた理由が政府による命令っていうのは、一体どういうことなの?