「腹の中が引っくり返ったみたいだぜ」
無空波の全身を貫く衝撃波を受けて尚も立ち上がった牛山辰馬に看守達は興奮気味に騒ぎ始め、その騒動に混ざって犬童四郎助も雄叫びを上げている。
「糸色、今の内だ」
「えっ?そ、そうでした」
斎藤一の言葉に頷いて犬童四郎助の視線に映らないように隠されながら樺戸集治監の囚人の持ち物や押収品を保管する備品庫へ向かう鷲塚慶一郎と別れて、私と斎藤一と永倉新八の三人は女傑族の秘宝があると考えられる犬童四郎助の執務室に向かっていた、その時だった。
「ガムシン、斎藤も居るのか?」
渋く身体の芯に伝わる力強い声が聴こえてきた。
「嗚呼、やっぱり生きてたな。土方さん」
「……副長、お久し振りです」
鉄扉の小さな窓枠越しに話す渋い顔の三人の姿を見上げる。三人とも私より背丈も体躯も大きいから、牛山辰馬と不破信二の騒動が無ければ目立っていたと思います。
そうなったら強行突破しそうですけど。
「そちらのお嬢さんは何方かな?」
「さ、相楽景と申します…!」
「相楽?赤報隊の相楽総三と同じ
「は、はい、そうです」
小さな窓枠越しに私を見つめる土方歳三の視線は何かを観察するように、何かを求めるように私の事を見つめ、ボソリと小さく呟いた。
上手く聞き取れなかったけれど。
誰かの名前を呼んでいたような気がする。
「お前達がか弱いお嬢さんの傍にいるという事は何かしら事情があるのだろう?」
「土方さん、俺達はアンタを助けに来たんだ。ちょいと鍵束も拝借して来たんだ。ほら、今すぐ此処からずらかっちまおうぜ」
「いいや、今出るわけにはいかない」
永倉新八は嬉しそうに鍵穴に合う鍵を探すが、土方歳三の無慈悲な言葉にへらりとした笑顔のまま動きが止まり、ゆっくりと面を上げた彼の顔は怒りが滲んでいた。
「まだアンタの眼は死んでねえのに、こんなところでくたばるつもりかッ。新撰組の鬼と称されたアンタが随分と情けねえ…!」
「永倉さん、大声は控えてくれ。不破が派手に陽動しているとはいえ此処はまだ樺戸集治監の中だ」
「……クソ、悪かったよ。お嬢ちゃんも悪かったな、おじさんの怒鳴り声、怖かったろ?」
「い、いえ、大丈夫です!」
本当は怖いですけど。
永倉新八は真剣に土方歳三の身を案じて、我が事のように怒っているのは分かっていますし、斎藤一も怒りたいけれど。冷静さを保たなくてはいけないと自分を律している事も知っています。
「二十年後、私は事を起こす。もしも二十年後もお前達が私を信じるのなら、共に走ってくれ。勿論、そこのお嬢さんもな」
「あ、あはは、それは……」
二十年後は流石に生きているのか分からないです。