「糸色君、左之助君を貸してくれないかね?」
「えっ、嫌ですけど」
「……いや、疚しい気持ちはない。少し信二君の面倒臭い習性に付き合って上げて欲しいだけなんだ。多少、怪我は負うだろうが核鉄の中に二人とも押し込めば半日で全快するはずさ」
「それは余計に嫌です。主人の事何だと思っているんですか、いくらドクトルでも怒りますよ?」
「まあ、当然の反応だろう。しかし、左之助君も喧嘩を出来なくて欲求不満という可能性もあるだろう?私の組んだマッチメイクはPerfectだと思うのだが」
そこに不満を感じている訳ではないです。
むしろ左之助さんが喜ぶことは即決で許可しますけど。先ずは本人に相談するべきところを妻の私に振ってきたことに怒っているんです。
いきなり喧嘩するようにお願いしても理由を伝えないといけませんし。なにより左之助さんもドクトル・バタフライに直接喧嘩のお誘いをしてもらえるほうが、きっと嬉しいはずですから。
「愛する妻のお願いなら、更に強い力を引き出せると私は思っているのだがね。しとり君もMadamにお願いされた方が嬉しいだろう?」
「まだむぅ?」
「せめて、Mrsにしてください。しとりは覚えなくていい言葉……でもありませんね。もう少し大きくなったら一緒に覚えましょうね」
「ん!」
私の言葉に笑顔になるしとりの頭を優しく撫でていると玄関の扉を開ける音が聴こえ、居間の襖を開けて左之助さんのお出迎えに向かっていくしとりを追いかける。
チラリと後ろを向けば金色の蝶を残して、ドクトル・バタフライは帰ってしまっている。ティーカップとソーサーは机の上に、そのまま置いて帰っていない辺り、本当に几帳面な人ですよね。
「お帰りなさい、左之助さん」
「おう。ただいま」
しとりを抱っこする左之助さんを廊下でお出迎えして、カバンと背広を受け取る。喧嘩や悪い人と戦うとき、緋村剣心達と行動を共にするときは昔から着ている「悪一文字」の服に着替えるけれど。
最近は居間の壁に掛かったままです。
「長谷川君達は?」
「アイツら今日も買い食いするってよ。景の作る飯の方が美味いのに勿体無いよなあ」
「函館中の食事処を制覇したいんですかね?」
「そういや明日郎はそう言ってたな」
あの子は食欲に忠実ですよねー。もっと美味しいものを作ってあげるべきでしょうか。まだまだ作れていない洋食も沢山ありますし。
「しとり、今日の晩飯はなんだろうなぁ?」
「ん!からあげたべたい!」
「フフ、正解ですよぉ」
しとりの言葉にパチパチと拍手し、既に一度揚げていた唐揚げを油で満たしたお鍋の中に投下し、二度揚げを始める。やはりガスは偉大ですね。