緋村剣心と斎藤一の再会から二日後。私は明治政府の内務省の長を務める内務卿大久保利通、それから警視総監の護衛川路利良と会談をしている。
「すまなかったね、年若い女性がいきなり警官に睨まれては話すに話せなかっただろう。そして、こうして君と直接話すのは初めましてになるね、糸色
穏やかな口調で大久保利通は東京では一度も名乗っていない私の下の名前を呼んだ。私の事は調べている、そう斎藤一も言っていたけど。
まさか、本当に全部調べたの?と言い知れない恐ろしい不安を抱き、私は目の前に座っている大久保利通と警視総監の方を見る目が僅かに揺らぐ。
「こうして話の場を設けたのは他でもない。君の優れた知識と未来を見通すがごとき慧眼を我々に貸しては頂けないだろうか?」
嗚呼、この人は下手に出ているようで私に一切の拒否権を与えていない。また、どこかに、そうよ、また私を知らない何処かに逃げなくちゃいけない。
「生憎とウチの女房は小心者なんだ。アンタ等に力を貸すなんて負担のかかることしたら、そのまま何処かに消えるかも知れねえ」
「若僧、貴様は黙っていろ!」
「黙るのはテメェだ、ハゲダコ。まだ十五歳の女に重荷を背負わせて、やれ明治政府のために?ふざけんのも大概にしろよ」
ギュウ…!と私の肩を抱く左之助さんの力強さと安心感に怯えていた心が少しだけ落ち着き、ゆっくりと深呼吸を繰り返して目の前に座っている大久保利通に私は深々と頭を下げる。
今回だけは守って貰うわけにはいかない。
左之助さんの妻になるなら、少しでも度胸を持てるようになって彼も安心できるお嫁さんになる。───ううん、ならなくちゃいけないんだ
「すみません、そのお話はお断りします。私は大久保卿達の求めるものを想像し、生み出せるほど凄い人間じゃありません。私は、ただ絵を描くことで生計を立てている一介の物書きです」
それに、大久保利通の真意は私を仲間に引き入れる事じゃない。むしろ、その真逆だ。大久保利通は、わざと私を追い詰め、私を遠ざけようとしている。
「貴様、どういうつもりだ!?」
「成る程、私が聞いていた以上に聡明なお嬢さんだ。川路君、彼女の勧誘は終わりにしよう。……そして、相楽左之助君、君は出来るだけ人目の多い場所に彼女と移りたまえ。それが彼女のためになる」
「……どういう意味だ…」
「いずれ分かる。緋村に宜しく伝えておいてくれ」
そう言うと大久保利通は茶菓子屋の暖簾を潜り抜け、私達に振り返ることは一度もなかった。ただ、私を人目の多い場所に移せという言葉の意図は理解した。
いや、理解せざるを得ない。
唯一、緋村剣心に真向勝負を挑んで勝っている志々雄真実が私の事を狙っている。そう、大久保利通は私に伝えるために斎藤一を使い、この会談の場を自分の命も危ういのにセッティングしてくれた。
ありがとうございます、大久保利通さん。