朝に始まった仕合は既に夕刻を過ぎているのに終わること無く続いている。左之助さんと不破信二の身体には夥しい量の打撲傷と裂傷があり、二人とも今すぐ傷の手当てをしなければいけない状態です。
「ハッ、ハハハッ、不破の歴史でここまで追い詰められたのはお前が初めてだろうな!四百年間、ずっと陸奥を越えるために生きてきたが、この負けるかも知れない最高の緊張感を味わえるのは俺だけだ!!」
「ガタガタとうるせえぇ…!」
「だからこそ、不破に敗北の二字は無い!」
そう陸奥九十九のような言葉を彼が呟いた次の瞬間、残像が見えるほど凄まじく影さえ踏むことの出来ない程に迅く不破信二は左之助さんの駆け回り始める。
私には見覚えがある。
「四神…!」
「知っているのかね?」
「はい、樺戸集治監で彼の放った無空波は陸奥と不破の両家に伝わる圓明流の奥義です。しかし、あの四神だけは陸奥の歴史にあるもので、不破に使えないはずのものなんです。それに、あくまで奥義の上に存在する奥義を越えた物です」
私の言葉の意味を理解したドクトル・バタフライは冷や汗を流し、この仕合ではなくなった死闘を止めるべきなのかを悩み始めている。
でも、この戦いを止めてしまえばドクトル・バタフライは二人に殺されてしまう。そう戦いに身を置いていない私でも分かるほどに二人は白熱してしまっている。
「(前後左右の四方向、その技を掛ける場所で四神の技がどれなのかは分かるけど。陸奥九十九と違って、化け物すらも殴り、蹴り、惨たらしく殺す不破信二の技がどういうものなのか全く想像できない…)」
「よーい、ドンッ!!」
まるで駆けっこを仕掛けた子供のように笑い、不破信二は左之助さんの拳を避け、がら空きの右脇腹に蹴りをめり込ませ、苦悶の表情を浮かべた左之助さんの頭を蹴り、もう片方の足で首を押さえつけ、仰向けに倒れ込んだ彼の頭に肘を打ち下ろした。
まさか、朱雀と青龍の複合技……?
いえ、それよりもっ!?
「さ、左之助さん!生きてますよね!死んでないですよね!?死んだら私も一緒に死にまっ、ゴホッ、ケホッ、んぐッ…ゴフッ?!」
不破信二を押し退けて倒れ伏す左之助さんの身体を私は血を吐きながら揺さぶると「……まだ、死んでねえよ……」と掠れた声で呟き、生きていたことに安堵の息を漏らす。
「糸色君、退きなさい。傷を診る」
「は、はい、お願いします」
「……ムッ。これは!?」
「ど、どうしたんですか!?」
「頭蓋骨が硬すぎて致命傷になっていないな」
ペチンと左之助さんの額を軽く叩いたドクトル・バタフライの頭に私は履いていた草履を叩きつけ、ベチベチと何度も叩いて不安にさせたことを怒る。
「ハァーッ、マジで楽しかった!久しぶりにマジの喧嘩が出来た相楽も楽しかったか?」
「……阿呆が、此方は死にかけたんだ。てめえ次に戦うときは覚えてろよッ」
そう言うと二人は血まみれの手で握手をした。
「景、悪いな。負けちまった」
「……負けても良いです。無事で居てください」
私の言葉に「いや、男というものは総じて負けず嫌いなのだよ。二人とも実に素晴らしいFightだったよ。糸色君、彼らはこのまま核鉄の山に放り込んでおくから、君は暫く安静にしておきなさい」とドクトル・バタフライは締め括ってくれた。
えぇ、そうします。
また、血も吐いちゃいましたし。