「恵さん、ご飯は自分で食べられますよ?」
「えぇ、知っているわよ?」
「じゃあ、なんで」
「私にあんな男を紹介してきたバツよ」
「ひぐっ」
木製のスプーンに溢れ返るほど盛ったお粥を口の中にねじ込まれ、モチモチした独特の食感とほんのりと香る梅の風味、練り潰した梅を混ぜているのかな。
あと、べつに私が不破信二を紹介した訳じゃないですし。そういうのはご本人に直接言って、いえ、それはダメなんでしたよね。
そう口許の汚れをちり紙で拭き取り、恵さんにお粥を食べさせてもらう。雛鳥のような気分になりますが、これでも二児の母親になるんです。
まあ、お友達に心配して貰えるのは嬉しいですけど。
「ところで、左之助はどうしたの」
「薫さんのお父様探しを商会の人達にお願いしに行ったんだと思います。あの人は義理人情を重んじる、とっても優しい人ですから」
「紹介って誰を紹介するつもり」
「ああ、いえ、商会というのは商いの事です。左之助さん、渡米したときにお化粧品や製紙産業、お菓子工場を立ち上げて、今は交易商を営んでいるんです」
「成る程、景さんの知識を隠すためってこと。貴女は昔から面倒事に巻き込まれて、本当に大変だったから表向きに立つならアレの方が良いものね」
やはり私と左之助さんの事を知っている人には、直ぐにバレてしまうものなんでしょうか。けど、左之助さんが経営しているのは事実です。
金銭管理は私が請け負っていますけど。
みんな潤沢に二円という破格の給金を受け取っているので、やる気や頑張りも塚山商会を除けば、他の商会とは経営の黒字化は桁違いです。
「今更だけど。アイツ、ちょっと変になってるわよ」
「左之助さんが変?」
どこか変わったところがあったでしょうか?とお水を貰い、こくこくと少し口に含んだお水を飲みつつ、左之助さんのことを考える。
しかし、変わったところなんて一つも思い付かない。
私には分からないことなのだろうか。
「病み度が増しているわ」
「や、やみど?」
「たまに居るのよ。病的に相手に執着して、閉じ込めた挙げ句、殺したっていうヤツが。景さんと左之助は大丈夫でしょうけど、万が一の事は想定しておきなさい」
左之助さんが私を殺す。あり得ない仮定だとは思うものの、やはりそういう未来は気になってしまいます。左之助さんが私を殺す。
「(あまり想像できないですね)」
まあ、疑う必要性がないと考えれば良いわけで。
「……あれ?左之助さん、カッコいいままでは?」
「……はあ、貴女も病んでるみたいね」
結核は手術で完治しましたよ?