先日は私の事を黒幕や裏ボスと思っていた事実に泣きそうになりながら、しとりも剣路君も居ましたから泣くことはありませんでしたけど。
やはり大好きな旦那様まで私の事を黒幕と思っていた事実に悲しくなりました。私にはもうしとりだけです、私を一番慕ってくれて優しくしてくれるのは左之助さんは意地悪です。
「ん!けんちゃんとあそんでくる!」
「し、しとりまで…!」
トタトタと着物の袖を揺らして駆けていく愛娘の背中を苦渋の決断で見送り、その後ろを爆速で追いかける大型犬サイズまで成長したクズリのドンと、その背中に乗った猫にも狸にも見えるすねこすりも見送り、更にしとりの影に浮かぶ個魔の方も見送る。
いつも騒々しいですけど。
今日は静かで、何だか冬の風も心地良いですね。
「…静かだなあ………」
あ、なんか某極道漫画のラストを思い出した。
いえ、まあ、余計な事は考えないようにしよう。私は漫画を描くと「物語」を現実に繋げてしまう能力が勝手に付属していたわけで、疚しい気持ちも悪いことを考えていない訳ですが───。
ふと、あることに今気が付きました。
私、たまに春画を書きます。
それで生計を立てていた時期もあったわけで左之助さんがあんな風に破廉恥な偉丈夫のスパダリになってしまったのは少なからず私の責任だったりするのでしょうか。
「(最近、左之助さんがおかしくなっていた理由はまさか私の春画の可能性もある?…………ま、まあ、好きな人に愛して貰える事に重さも軽さも関係ありませんよね)」
「景、なに百面相してるんだ?」
「ひゃあっ!?」
いきなり病室の窓を開けて、顔を覗かせてきた左之助さんに驚いて情けない悲鳴を上げてしまう。バクバクと治して貰った心臓が驚きすぎて、少しばかり痛みをゆっくりと深呼吸を繰り返す。
「左之助さん、そういうのはやめて下さい」
「いや、悪気は……いや、悪かった」
「フフ、じゃあ許してあげます」
「おう」
窓枠越しに話す左之助さんというのも新鮮ですが、何故でしょうか。左之助さんの背後にそこはかとなく邪な雰囲気を感じます。
「景は本当に無防備だなあ」
「んッ。いきなりどうしたんですか?」
私の頭を撫でる彼に問いかけると「今、この場所にはオレとお前しかいないんだぞ?」と意味深な笑顔を向けられても首を傾げてしまう。
それは、普通なんじゃないんですか?
「私達は夫婦なのに二人きりはダメなんですか?」
「……あー、ダメじゃねえな」
ワシャワシャと更に頭を撫でてくれる左之助さんの手が擽ったくて、頬を撫でる手が、唇に触れる指が、なんだか恥ずかしく思えます。
かちゃりっ。
「……え?」
「おお、よく似合うな」
笑顔の左之助さんを見上げつつ、恐る恐る自分の首筋に触れると何やら革製の物が巻き付いていて、これは首輪なのでは?!ともう一度左之助さんを見上げる。
「チョーカーって言う装飾品だそうだ。景に似合うと思って買ってみたんだ。どうだ?」
そう言うと棚の上に置かれていた手鏡を差し出してくれる左之助さんに言われるがまま鏡を見る。黒を基調としたものに、少し白い螺旋模様がある。
「……ありがとうございます。嬉しいです」
「そうか?なら良かった」
フフ、邪推する必要はありませんでしたね。