人間の女性とは思えないほど美しく艶やかで入念に研磨を繰り返した綺麗な黒曜石の如く煌めく黒髪を揺らす作務衣姿の女性を掴んだ明神君に私は首を傾げる。
「件の女刀鍛冶だ」
「えっ。この人がそうなんですか?」
三条さんに明神君が浮気しようとしていたなんていう誤報を報せずに済んで良かったです。いえ、まあ、明神君は浮気はしないでしょうけど。
「初めまして、私は相楽景と言います」
「ワシの号は刀々斎、
ごう?この場合は称号や襲名した名前になりますが、刀々斎様の血族に当たる女性なのでしょうか?と首を傾げつつ、彼女の襟首を掴む明神君に「もう離してくれて大丈夫ですよ」と伝える。
「ワシを探しとるヤツがいるのは知っていたが、奈落、白面の者、おまけに『げぇむ』の奴らに関わるヤツの臭いまで混ざってやがる。臭いぞ」
「くさっ!?し、しとり、臭いですか?」
「ん!いいにおい!」
そ、そうですよね。
毎日私は身体を清めていますし、お風呂だって安心安全のドクトル・バタフライ謹製の湯船に段差を作った椅子もありますし、シャワーやジャグジーまで完備された完璧なお風呂ですからね。
絶対に臭いはずがないんです。
「いや、体臭の話じゃない。お前の身体に纏わり付いている妖気の話だ。まるで自分の物だと広めるように染み着いた臭い、ワシなら直ぐに薬湯に浸かるな」
「薬湯、是非に!」
「糸色姉ちゃん、風呂は後回しだろう。薫が帰ってくる前に一通りの事は聞いておかねえと、あの写真のオヤジさんがどこにいるのか分からなくなるぜ」
「そ、そうでしたね。コホン、刀々斎さんにお聞きしたいのですが、この神谷越路郎というお髭の生えた剣客に会いませんでしたか?」
「その男なら昨日も会ったぞ。何やら地獄の門に興味を示していたが、ワシの刀を勝手に持ち出した悪いヤツだ。捕まえてくれ」
刀を勝手に持ち出した。
───つまり、神谷越路郎は普通の人間の造り上げた刀では対抗できない相手と戦っている可能性もあるということですが、ご本人に会わなければ彼の心意を知ることは出来ません。
北海道の妖怪。
河童の河太郎やすねこすりの親分、熊の妖怪など出会った妖怪はどれも不思議な存在で、神谷越路郎が妖刀に手を出してまで倒す必要のある妖怪。
オヤウカムイ?
そうなったら蛮竜だけでは倒せない。
せめて獣の槍が必要になってしまいますし、不破信二と戦ったばかりと左之助さんにまた負担を掛けてしまうことになります。
それだけは絶対にダメです。