「来てやったぞ。小娘」
「刀々斎様、煤まみれですよ!?」
「ついでに風呂も貸せ」
刀々斎様の命令じみた言葉に戸惑いつつ、ドクトル・バタフライの作った浴室へと案内し、洗髪材の種類を教えて上げ、身体を洗う用のタオル、髪と体を拭くタオル、化粧水や保湿液について教え、私は病室に戻った。
しとりとお風呂に入るときが怖いですね。
「あがったぞ」
「えっ」
もう?
「まず、ワシが今日来たのは余計な邪魔を受けることなくお主と話せると思ったからだ。それとじい様が作った護身用の懐剣を渡すためでもある」
懐剣。
確か武家の娘や子供に渡す本当に護身用の刀剣になりますけど、私は刃物は新井先生の作ってくれた包丁以外に裁縫用の鋏や髭剃りのために小柄を使ったくらいで、本当に何も出来ませんよ?
「安心しろ、別に誰彼を斬るわけではない。それは結界を張るために拵えた刀だ。抜かずとも持っているだけで良い、ワシはお主の事はじい様に聞いているし、なんなら面倒臭いヤツに絡まれる哀れなヤツだと思っている」
ず、ズバズバと酷いことを言いますね。
ごもっともな言葉ばかりです。
でも、私だって気を付けているつもりなんですよ?それなのになぜか変な……変な?妖怪や人に気に入られることがあるだけで、それ以外はごくごく普通の人妻だと自認しているのですが……。
「まあ、御託はどうでも良い。抜いてみな」
「……綺麗…」
ゆっくりと懐剣の鯉口に親指を当て、ゆっくりと柄を引き抜くと鏡面の如く磨き上がった綺麗な刀身。よく見ればハバキの部分に糸色家の「糸巻き」の家紋彫りもあり、刀々斎様の御厚意に感謝の言葉を紡ぐ。
「じい様は奈落に狙われていたお主を心配していたが、まさか四百年も先の未来に居るなんて、あの変態妖怪でも見つけることは不可能だったな」
変態妖怪……多分、奈落のことですよね?
けど、この懐剣は嬉しいです。
「ありがとうございます。刀々斎様、襲われることは無いと信じていますが、とても心強いです。それで、この懐剣の銘は何と言うのでしょうか?」
「棺桶要らず」
あの、それは天生牙の候補のひとつだったのでは?と思いつつ、私は棺桶要らずを鞘に納めて帯に差す。少しばかり恥ずかしくもありますね。
「天生牙に似ているが違うぞ。ソイツは人を斬るし、妖怪も斬ることも出来る。ただ、斬ることになるのは最終手段だ。棺桶要らずは人を守るために力を発揮する」
そう言うと刀々斎様は病室の扉を開け、何事もなかったかのように出ていってしまった。あの人は結局神谷越路郎と何の関係があるのでしょうか?
「ああ、それと『門』はもうじき開くぞ」
────門。
妖逆門。いえ、それとも地獄の門の事?それは月華の剣士達が封印してくれた筈です。今さら地獄の門を開くなんて考えている人がいるわけが……。
まさか、神谷越路郎が?