「漸く捕まえたぞ、この野郎!」
笠を被った男の襟首を掴んだ瞬間、オレの腕を斬り飛ばそうと素早く刀を抜刀し、瞬時に鞘に片縄納める相手に斎藤と弥彦も警戒心を強める。
剣心の天翔龍閃とは違うが、かなり速い上に背中まで切り裂くように円を描いていやがった。昔、豚まんじゅうを襲っていた嫌な男を思い出しちまったぜ。
「何故、俺を狙う?」
「狙うも何も聞き込みしようとして逃げたヤツを追い掛けるのは当たり前だろうが、何か知ってるなら素直に吐いとかねえとオレはこいつを止めねえぞ」
「阿呆が。俺は殺さずに生け捕りにするつもりだ。もっとも五体満足に返すという保証はない。あの小娘には悪いが片腕か片足は斬る」
ゆっくりと刀を抜く斎藤を警戒し、オレと弥彦の動きにも対応できるように構える笠の男の動きは嬢ちゃんや弥彦の動きに似ている。
いや、そっくりだ。
偽者かと思ったが、こいつは本物の神谷越路郎で間違いない筈なんだが、どうしてコイツは木刀じゃなくて刀を抜きやがった?
神谷活心流は活人剣だったはずだろう。
「オッサン、名前は?」
「答える理由はねえな。第一、俺の名前を聞いたってアンタ等は何にも知らないだろ?とくに赤い鉢巻きの兄ちゃんと木刀の坊主、お前らは特にな」
「てめえ、誰が坊主だ!オレは東京府士族、神谷活心流師範代の明神弥彦だッ!!元服も済ませてるし、今年夫婦になる相手もいるんだよ!!」
「……神谷活心流?お前、薫の弟子か?」
刀の柄を握っていた手を退け、弥彦の事を見つめる笠の男が顔を上げた瞬間、オレも斎藤も弥彦も目を見開いた。顔の一部に他の人の顔が張り付いている。
「嗚呼、お前らも見える方か?いやー、数年前に門から溢れてきたヤツに取り憑かれてよ、引き剥がそうにも門が中途半端に閉じてやがるから、コイツは未だに俺の身体に張り付いてやがるのよ」
そう言って笑うオッサンは何処と無く嬢ちゃんに似ている。多分、あの大雑把な性格は父親譲りなんだろうな。だが、身体に取り憑いているヤツを引き剥がすなんざ、オレ達には出来ない。
「さて、薫の弟子と知り合いって事はアイツも来ているんだろう。で、どいつが旦那なんだ?警官か、赤い鉢巻きか、そこの士族か?」
「嬢ちゃんの旦那は別だ。あと孫も居るからさっさと帰ってやれ、オレ達はアンタを殺すためでも追い掛けるためでもなく。ただ、父親に会いたいっていう嬢ちゃんのお願いを聞いただけだ」
オレの言葉に納得したオッサンに一歩踏み出した瞬間、オレの首に刀が抜き放たれていた。だが、オッサンは自分の右腕を左手で掴み、太刀筋を押さえつけていた。
「悪いな。右半身は気を抜いたら危ないんだ」
取り憑いているってか、もはや呪われてるな。