左之助さんの連れてきてくれた神谷越路郎に抱きつき、十年近く会えていなかった寂しさと悲しさ、ようやく再会する事の出来た嬉しさを伝えるように、薫さんは涙を流して神谷越路郎と話し合っている。
その様子を私は病室の中で見下ろすように眺めていたその時だった。イビツで嫌な音を立てながら窓ガラスを突き破って、私の顔のほとんど真横を突き抜けるように刀が天井に突き刺さっていた。
いえ、何かに阻まれて天井に突き刺さった?
「…………え?」
「ん!母ちゃんかたな!」
「あっ、そ、しとりは危ないから部屋の外に行っててね。お母さん、壊れたガラスを集めないといけないから、お願いしても良い?」
ベッドに散らばったガラス片を集めるためにチリ箒を手に取り、床や掛け布団に舞ったガラスを丁寧にかき集めていると部屋の扉を開けて入ってきたドクトル・バタフライがチャフを使い、部屋の中を満たす。
「埃もゴミもガラス片も集めた。だが、布団類は新しいものに替えることにしよう。糸色君、君も部屋を退出して貰えるかね?」
「は、はい、お願いいたします」
「ん!母ちゃんもいっしょ!」
そうですね、お母さんもしとりと一緒です。
ゆっくりと胸元の懐剣を触る。おそらく、さっき刀の突進を弾いてくれたのは、この懐剣なのでしょうが、あの刀は一体何処から現れたのだろうか。
まさか、あの樹木に刺さっていた刀が?
ドクトル・バタフライも研ぎ終わったとは言っていましたけど。未だに見せてくれることはありませんでしたが、こういうことだったんですね。
「景ッ、大丈夫だったか!?」
「左之助さん、私もしとりも大丈夫で」
私が言葉を紡ごうとした瞬間、私としとりを守るように懐剣が左之助さんを弾くように蛍火色の結界を張り、左之助さんも私も困惑したように顔を見合わせる。
しかし、違和感に気付いた。
「どうなって?」
「……貴方、誰ですか?」
ゆっくりとしとりの事を抱き締めて、懐剣を握り締めて問い掛けると左之助さん?の顔が能面のように無表情に変わり、ボコボコと身体の中で何かが蠢き始める。
「やはりお前は素晴らしい」
「な、奈落…!?」
な、なんで、犬夜叉達に倒されているはずじゃ?!
それに妖気も瘴気も感じない。
「こやつは儂の分身だ。儂の意志が残っておれば肉体の主導権を奪い取る事など造作もない。が、こやつの知識は中々に面白いもので溢れている」
何の感情も感じない声に尻餅をついたまま後退り、しとりをドクトル・バタフライの居る病室へと連れていくには時間も距離も足りたい。
───刹那、私の背後から木刀と刀を構えた男の人が奈落の身体を打ちのめし、私と奈落の間に立ち塞がった。さっきまで薫さんと話していた神谷越路郎だ。
「全く、無体が過ぎるぜ。小僧!」
「チッ。また新しい男か」
いや、そんな何股もする不埒な女のように言わないでもらえますか?と思いながらも病室の扉を開け、私はしとりを抱き抱えたまま部屋の掃除をしていたドクトル・バタフライに奈落の存在を伝える。