粗方、引っ越しの準備は終わり。
荷解きの中に合流してくれた高荷さんと神谷さんが緋村剣心の錦絵を取り合うという珍事は起こったものの。更に錦絵を描くことで二人の小競り合いは終息した。
あの二人も仲良くしてくれれば良いんだけど。まあ、同じ人を好きになってしまったのだから、喧嘩してしまうのは仕方無いことなのかも知れない。
そんな自分も恋する感情の激しさには納得も出来るけど、二人の友人としては余り喧嘩してほしくない気持ちに溜め息を吐きつつ、二人の姿を和紙に書き記していると廊下を歩く音が聞こえてきた。
まさか志々雄真実の使いがもう?と思いながらガラリと開かれた襖を見つめ、其処に立っている人が左之助さんだと分かり、ほっとする。
「嗚呼、左之助さんだったんですね」
「どうかしたのか?」
「いいえ、ちょっとビックリしただけですよ」
いつもの「悪一文字」の服ではなく寝間着や普段着にも使える紺色の落ち着いた色合いの着流しを身に纏った左之助さんに安堵する。てっきり志々雄真実にもう私と左之助さんの引っ越し先がバレたのかと思ったわ。
「それなら良いけどよ。そっちの片付けが一段落したなら晩飯食いに行こうぜ」
「フフ、また赤べこでしょう」
私がそう問いかけると左之助さんは「彼処は馴染みの店だからな、それに剣心達も引っ越しの祝いって事で牛鍋を奢ってくれるらしいからな」と。友達にお祝いしてもらえるのが、とても嬉しいのだと私に話してくれた。
「赤べこ」に夕御飯を食べに行くために財布を持って部屋の襖を閉め、縁側に置いていた草履を正面玄関を出て彼の隣を歩く。
それにしても緋村剣心と喧嘩ばかりしていた頃より更にふたりは仲良くなったんだなと知り、なんだか嬉しい気持ちになる。
元々私のせいで左之助さんはまだ『斬左』のままだから、負担を掛けているのではと不安になっていたから、彼の楽しそうに笑う顔を見れて私も嬉しくなる。
「尾行んなら見えねえところにいろよ」
「阿呆が。此方は仕事帰りだ」
いきなり人混みの中で出会った斎藤一に噛みつく左之助さんを宥めつつ、ゆっくりと斎藤一の事を見つめる。やっぱり、また煙草を消した。
私が近くにいるときは煙草の火を消してる?
「……あの、これから引っ越しのお祝いをするんです。もし良かったら斎藤さんも来ませんか?」
「おい。お前の女房が壊れたぞ」
「景、風邪引いてんのか?」
二人の辛辣な言葉にグサリと心にダメージを負いつつ、泣きそうになりながら「ほら、隠れて尾行するより近いから楽ですし」と言えば更に深い溜め息を二人に吐かれてしまった。
「……ハアァ…こんなのが日本の行く末を担うと考えるだけで頭が痛むな」
いや、そのお誘いは断りましたよね。
「もう考えるの面倒臭せえし。剣心と喧嘩しねえならテメェも来い、そのほうが景も安心できるだろ」
「俺は仕事帰りだと言っているだろうが。お前らは揃って人の話を聞かないつもりか?」
そう言って左之助さんは「お前はコイツを泣かしたムカつくヤツだが極悪人じゃねえからな」と付け加えて、斎藤一の同伴を許してくれた。
ツンデレな左之助さんも良いかも知れないわね。