昨晩、斎藤一を交えた引っ越しのお祝いは喧嘩も殺し合いも起こることなく平和に終わり、今日も何事も危ないことなんて起きないと思っていたのに、緋村剣心は京都に行ってしまった。
緋村剣心は神谷さんと明神君を神谷道場へと送り届けた帰り道、いきなり話を切り出してきたそうだ。当然、二人とも止めたけど。
彼はその静止を振り切って夜の闇に消えた。
「あの野郎、まだオレとの決着が付いてねえだろうが!勝手に京都なんかに行きやがって、絶対に連れ戻してぶん殴ってやる!!」
左之助さんも自分に黙って旅立った事に怒りながら荷物を纏め、斬馬刀に袋を被せて今すぐ緋村剣心を追いかけようとしている。
「景、お前は薫のところに行ってやれ」
「……っ、はい。分かりました。ただし、私の手渡す旅費と保存用の干し肉や干し魚をしっかりと持っていって下さい。それから、絶対に死なないで下さいね」
「おう。行ってくらァ…!」
私の心配して掛けた言葉にニヤリと笑った左之助さんは袋に積めた旅費と日持ちするようにした日持ちする干物に、走りながら食べられるお結びを笹の葉に包んで差し出すと、直ぐに駆け出して行った。
左之助さんなら、きっと大丈夫なはずだ。
「……あれ?これ、月岡さんのところに…」
ど、どうしよう!?
このままだと私のせいで志々雄真実の乗った『煉獄』を爆発させる筈の炸裂弾が貰えなくて、あっ、えっ、今から左之助さんを追いかけても私の貧弱すぎる体力じゃ絶対に追い付けない。
そもそも押し掛けて炸裂弾を渡して欲しいと言えるほど私と月岡津南は仲良しじゃないし。……こ、こうなったら左之助さんのために爆弾を作るしかない!
一応、薬品関連は交易場で買える。硝酸と硫酸は大金を使うことになるけど、左之助さんのためなら問題ない。石鹸は自家製の物を使えばいい。
この三つを揃えてニトログリセリンを作り、木屑や乾燥させた紙に染み込ませて、左之助さんのためにダイナマイトを作ってあげればいいんだ。
「絶対にバレたら斎藤さんに怒られるか、下手したら捕まるかもしれないけど」
まだ祝言を挙げていないのだ。
もしものときは左之助さんと一緒に逃げれば良い。
私の知識を狙っているのは何も志々雄真実だけじゃなくて、明治政府の中にも武田観柳の話を聞いている人は大勢いるのは斎藤一の登場と言動で理解はしている。
そう色々な事を考えながら歩いているといつの間にか神谷道場にたどり着き、不用心に開いている正門を開けた瞬間、ヒュッ…!と冷たく乾いた息を飲んでしまう。
何故なら神谷道場の中には誰も欠けていない完全な状態の御庭番衆が勢揃いし、その近くに高荷さんと斎藤一が一緒にいるという恐ろしい光景が広がっていた。