我が家に帰ると斬鉄と神谷越路郎の二人が睨み合っていた。刹那の顔の取り憑いている相手ですし、まあ、こうなることは予想していましたけど。
ここまで嫌い合っているとは予想外ですが、すでに他の方々も集まっているため、それをどうこう話し合っている暇はありませんね。
もっとも刹那は常世の人間、それも「悪」としての意識は強くてラスボスに成り得る可能性もあり、私も少なからず神谷越路郎の身体を乗っ取る事を警戒している。
しかし、その予兆は未だに無いものの、やはり殺戮剣と呼ばれた残忍性を知る斬鉄の警戒する様子は強ち悪いものとは言えない。
それでも刹那の「悪意」を押し込める神谷越路郎の超越的な精神力の強さはすごい。私が取り憑かれたら一瞬にして意識を奪われ、この身体の弱さにきっと取り憑いた側も困惑することでしょう。
「糸色景殿、貴女様の居ぬ間に座して待った事をお許し下さい。しかし、事は想像していたものより遥かに深刻、この男のように身体の乗っ取りを受けるものが日本各地に続出している」
そう言うと私に頭を下げる斬鉄。
「分かりました。お父様達に電報をお送りします」
私個人はそこまで偉いわけではないですから、そういうことは人前でしないようにしてほしい。でも、斬鉄の様に強い人が傅き、私のお願いを聴いているときにそんなことを言えるわけもない。
「景さん、やっぱり……」
「薫さん、その『やっぱり』とは?」
「う、うぅん、なんでもないわよ」
どうせ、また私の事を黒幕や悪役の総大将だとか思っているのでしょうが、私は本当に悪いことには無関係な普通の人妻です。
「景は悪者じゃねえのにな」
「左之助さん…!」
「どっちかと言えば悪巧みする方だ」
「さ、左之助さん?」
彼の袖を掴んで揺さぶるも愉しそうに笑うだけで、しとりも不思議そうに左之助さんのことを見上げ、可愛らしく小首を傾げています。
「糸色殿、拙者としてはお主を巻き込むのはやはり危ないと思っている。お主は一度も志々雄真実に会っておらぬが、アイツはお主に想像以上に執着している」
「剣心、オレの女房を怖がらせないでくれよ」
……えぇ、怖いですよ。
あの志々雄真実が甦ると考えるだけで怖くて怖くて仕方ない。私は会わずに済みましたけど、他の戦うヒロインだったらお気に入り認定を受け、向こう側に勧誘を受けることでしょう。
しかし、私は本当に一般人です。どれだけ取り繕ったところで志々雄真実に捕まれば二度と帰ることは出来ず、そのまま常世の世界に取り込まれるかもしれない。