「初めまして、僕は楓と言います」
みんなに地獄の門の調査と死者の黄泉還り関連を任せて、私は「月光条例」の続きを描こうと原稿用紙の紙束。抱えて帰っている途中、爽やかな黒髪の青年に手を掴まれ、微笑みを向けられた。
いえ、それよりも私が一人のときに「月華の剣士」の主人公と遭遇してしまった。最悪……ではありませんけど。明らかに私が単身のタイミングを狙っていたように会いに来ましたね。
「女の肩をいきなり掴むな。阿呆」
「いだあっ!?」
「ススハムさん、良かったです!」
軽やかな浮遊と共に放たれた蹴りが楓の頭を弾き落とし、私の事を守るように背中に庇ってくれたススハムに安堵の息を溢す。やはり誘拐を経験しすぎて、背の高い男の人に苦手意識がある。
そもそも視線や注目を集めるのは苦手ですし、あまり派手な騒動に巻き込まれて有名になるのは本当に困りますから、いきなり身体を触るのはやめて欲しい。
「ススハムさん、痛いじゃないか!」
「アタシの友達を怖がらせた罰よ。全く、雪に女の子の扱い方を習っていた癖に本当に面倒臭い男になったわね。顔面国宝だからって調子に乗るなよ、此方はイケメンよりダンディが好きなんだよ!」
「また僕の分からないことを言って…」
「あの、人目もありますからここで喧嘩するのは止めて下さい。楓君?もお話なら主人のいる家でしてもらえると助かります」
そう言って二人の喧嘩を仲裁し、ススハムに原稿用紙を奪われる形で持って貰い、二人を従えるように一緒に歩いていると後ろから話し声が聞こえてきた。
「……ススハムさん、どうしよう」
「なに、頭でも割れたの?」
「僕、この人のこと好きになっちゃう…!」
「……相楽カッケマッ、アタシの傍を離れないでちょうだい。この男はもう私の知っている純朴だった頃の楓じゃないわ。コイツは取り柄が顔面だけの変態スケコマシに堕落しているみたいだ」
私は何を聞かされているんでしょうか。
私の知っている「月華の剣士」の楓といえば少し俗世に疎い感じの純真な青少年だったはずなんですが、これもまた転生者が関わっているのかしら?
「アンタ、私達以外に誰かに会ってきたの?」
「いや、違うんだ。この人の事を見ていると『ああ、この人なら僕だけを見てくれるんだな』っていう謎の思念が頭の中に渦巻いているだけで」
それはもう乗っ取られているのでは?と思いつつ、私はススハムに視線を向けると「キッショ、近寄らないでよね」と口悪く罵っていました。
多分、地獄の門の向こう側に居る誰かに干渉を受けているだけだと思いますけど。私はNTRは滅びれば良いと思っているのでお友達にはなれませんね。