志々雄真実の復活に焦りを見せる緋村剣心。それもその筈でしょう、すでに三十歳を越えた彼と、全盛期の志々雄真実、それと死者として不死に近しい状態の相手と戦えるとは思えない。
万事休す。絶体絶命。最悪の事態を想定すると志々雄真実によって私は地獄の淵に引きずり込まれ、紫鏡の様に焼け爛れて腐敗した身体に変わり果て、知性すら失った様になるわけです。
それだけは絶対に避けたいですね!
しかし、ほぼ無敵とも言える志々雄真実を倒す手段は地獄の門を閉じて封じ込める以外に存在しておらず、楓君や斬鉄曰く「地獄の門を閉じる力を感じる」のは私だけであり、もしもの場合は私を使うことになる。
「(お母さん、あなたを産んであげたいのになあ…)」
「景、心配するな。その時はオレが行く」
「絶対にダメです。左之助さんが居なくなったら誰がしとりや会社の人達を見て上げるんですか、私だけじゃ全員を見守るなんて不可能ですよ」
きゅっと左之助さんの手を握り締める。
やはりもしもの場合を考えて、ドクトル・バタフライに教えて貰った奥の手とも言える私の鬼手を切るしかないのでしょうか。
でも、それを使うと世界規模の問題もあります。
「糸色、お前の意志は尊重するつもりだが、余り鵜堂の言葉を真剣に捉えるな。アイツの事だ、どうせお前の悩む姿に愉悦を覚えているに過ぎん」
「……本当にそうなのでしょうか」
「どういう意味だ」
「あの人って怖いことは言いますけど。私にウソを吐いたことないんですよ、初めて会ったときも怖いけど。ウソは言わずにいます」
そう言うとみんなの視線は尋問室の中にいる鵜堂刃衛に注がれ、私も鉄製の扉越しに聴こえる彼の独特な笑い声に身体をビクリと震わせる。
けど、やはりあの人は怖いです。
「相も変わらず女は斬れん男か…」
「え?」
「気にするな。相楽、もう糸色と帰って良いぞ。ただし身重のソイツを巻き込みたくないなら馬車馬のごとく働け、あの時のようにな」
「ヘッ。上等だぜ、斎藤!」
私の知らないところで通じ合う左之助さんと斎藤一の二人にショックを受けつつ、彼らの喧嘩を通じて得た友情に割り込める余地はない。
私も戦えたら、そう思ったことはありますけど。
そのときは私が私じゃない気もする。
いくら強くても賢くても弱くても私は私でしかなく、強い私になったところで、臆病で情けなく怖がりな今も左之助さんがいなかったら斎藤一や緋村剣心、鵜堂刃衛とも普通に話すことは出来ないか弱い女のままです。
恐怖を克服する?無理です。
だって、もう二十年近く生きているこの世界を未だに私は怖がっていて、終わるなら私自身の手で終わるように差し向ける事も出来ます。
なんだか闇に呑まれそうです。