阿武隈四入道と御庭番衆の戦いが始まった。
「カアッ!!」
「我ら御庭番衆を侮った事を後悔しろ」
「それは此方の台詞だァ!!」
大脇差を鞘に納めたまま鉞として振るケツアゴの男と戦う般若の動きは軽やかさを増し、相手が武器を振るう瞬間に何発もパンチを繰り出し、人体の急所を的確に打つ速射砲のごとき左ジャブに攻めあぐねる。
「ぬうぅあぁっ!!」
その状況に怒りと焦りで鉞を滅茶苦茶な動きで振り回す男の攻撃を般若は一足飛びで回避し、そのまま後ろ回し蹴りを放って無理やり頭を地面に叩き落とした。
「まッ、まって…れ」
「貴様の言葉に耳を傾けるつもりは無い」
何かを叫ぼうとした男の顔面に正拳を打った。
圧倒的なテクニックによって一切の反撃も許さず、相手を叩きのめした般若の動きに斎藤一は「ほう。お前が片腕と称するだけに中々の実力だな」と意外にも高い評価を静かに口にした。
余りにも呆気なく……えっ、まさか死んだ?
い、いや、ここには斎藤一もいるからまだ情報も奪わずに殺すなんて……わ、分からないけど。
阿武隈四入道を統率していた男の敗北に残りの三人は唖然としていたけれど。直ぐに武器を構えて、同じく残った三人の御庭番衆、式尉、癋見、ひょっとこに向かって一斉に襲い掛かる。
「ヒュウゥッ!!」
独特の呼吸で力を込め、両腕を腰に溜めた癋見は手の中から何かを高速で弾き出す。四乃森蒼紫に聞いたら教えてくれるかな?
い、いや、やっぱり怖いからやめよう。
「き、貴様、飛び道具とは卑怯か!?」
「卑怯も何も御庭番衆は元々忍びの集まり。暗殺道具を使うのは当たり前だろ?それに大陸伝来の
「うぉのれえぇ!!?大道芸ごときにぃ!!」
癋見が螺旋鋲と呼ぶ暗器だけど。
よく相手の足元を見ると落ちているのは「鋲」ではなく縁を研磨して鋭さを与えた無数の「銭」であり、相手の身体を切り裂き、相手の身体に食い込んでいる。
「ヘッ。コイツを大道芸と侮るなよ、コイツは御頭に認めて貰ったオレの特技だ!」
そう言うと癋見は螺旋鋲を相手の額に向けて撃ち込み、その衝撃を支える気力も体力も失っていた男は、仰向けに倒れ伏した。
四入道の二人目、撃破である。
「何故だ、何故斬れん!?」
「オレも油を変えたからな」
その真横で巨体を斬り付けられるひょっとこに私は違和感を抱く。あの人の身体は一ヶ所も
「噴ッ!!!」
「かぺっ!?」
圧倒的な体格からの張り手を受け、三人目の入道が地面にクレーターを作って沈み、動かなくなる。御庭番衆の圧勝と言える結果にほっと息を吐く。
ただ、私の目の前で「油を変えたから」というだけで説明しようとするひょっとこに眉間に皺を寄せる斎藤一が私に目線だけを向けて解説を求めてきた。
「多分、可燃性の油ではなく潤滑油……斬撃や銃弾を逸らす程に滑りやすい油を身体に塗り込み、自分の汗腺に油を蓄えているんだと思います」
「防御特化の技術というわけか。あの図体と報告に載っていた火炎放射も使い方次第では利用価値はあったが、お前の肉盾には使えるようだな」
「に、肉盾?」
「政府の依頼はお前の護衛だ。───だが、次にオレの部下を肉盾等と呼んだら、その首を斬り落とす」
「止めておけ、俺には勝てん」
私を挟んで睨み合う斎藤一と四乃森蒼紫の圧力に腰が抜けてしまい、高荷さんのところに戻って腰に抱きついて平常心を保つことに専念する。
「おいおい、オレが最後かよ」
「うがあぁあっ!!?」
ミシミシと遠くにいる私達にも聞こえるほど歪な音を立てて頭を捕まれて悲鳴を上げる最後の入道に思わず、私は哀れみの視線を向けてしまう。
きっと三人が戦っている間も彼だけは式尉に頭を捕まれたまま頭蓋骨をジワジワと握り潰される感覚に怯えていた事だろう。
私なら頭を捕まれた瞬間に気絶する自信がある。
「一応、お前達は使えると判断しておこう。そして、コイツが爆弾を京都へ運ぶ道中、確実に志々雄真実の傘下に襲撃を受ける。全力で守り抜け、それが亡き大久保卿の指示だ」
そう言うと斎藤一は御庭番衆と阿武隈四入道達の間を平然と歩いていき、それと同時に正門の外で待機していた警官隊が阿武隈四入道を捕縛していく。
よ、用意周到すぎる、流石は斎藤一…!