しとりの思いがけない言葉に動揺した左之助さんが緋村宅に乗り込んでから二日ほど経過し、依然として地獄の門の調査は難航し、斬鉄や楓君はそれらしきモノを見つけたと聞くたびに動いている。
「私も何か出来れば良いんですけど」
そう定期検診を受けるためにドクトル・バタフライの研究所へと赴き、心肺の状態を確認して貰い、お腹の子もすくすくと成長している状態をエコーで見て貰う。
日に日にドクトル・バタフライの空間だけ近代化を進めているように感じますけど。あまり『特典』を悪用するのはやめた方が良いと思います。
「ふむ、まだ平均には届いていない以外は頗る健康体だが私としては冬の間は外に出ず、静かに暮らして貰えると安心できるのだがね」
「そう言われてもみんなが動いているのに私だけ動かないというのは悪い気持ちになるんです」
「全く君はもう少し惰性的になる事を覚えた方が良い。見たまえ、あの修羅にあるまじき惰性を貪り、人の家で好き勝手に蜜柑を頬張る居候を…!」
「あ?」
「あ、あはは…」
ドクトル・バタフライの指差す方に視線を移すとそれはもう見事に緩みきった表情で蜜柑を一つずつ千切らず、皮を剥くと直ぐに丸飲みにして噛み始める不破信二が火鉢と炬燵を占領していた。
その近くに座って蜜柑を丁寧に剥いて、小さなお口で蜜柑を一欠片ずつ食べているしとりの可愛さに、ほうっと安堵の吐息をこぼす。
「ん!しんちゃんにもあげる!」
「お、おー、ありがとなあ」
「信二君、幼児のヒモはいかんぞ」
「ヒモじゃねえよ。一応、まだ不破の当主としてそれなりに働いているし、貯金は家の奴らがそれなりにしているはずだ」
それなり。している。
「不破さん、人任せはダメですよ?」
「ぐっ。真剣に叱らないでくれ、悲しくなる」
「わるいのはめっ!」
「…………はい、すみません…」
「ん!いいこ、いいこ!」
私や左之助さんよりも年上のおじさんである不破信二の頭を優しく撫でてあげるしとりに「性格や資質は君にそっくりだね」とドクトル・バタフライに言われ、嬉しい気持ちになるけれど。
普段の私はああいう事をしているのでしょうか。
「もう一度言おう、そっくりだと!!」
「そ、そうですか?それなら嬉しいです」
そう言ってもらえると母親としては嬉しいです。左之助さんの身体の強さや身体能力の高さを引き継いでいる分、あまり私の影響はないのかと思っていました。
いわゆる『親の遺伝子片側強すぎ状態』というものなのかと不安でしたが、ドクトル・バタフライのおかげで悩みは無くなりました。