ぼんやりと寝惚けた目で空を見上げていたとき、空に何か黒いものが見えた。眼鏡を探すために手を動かし、見つけるなり直ぐに眼鏡を掛ける。
「……空に、亀裂?」
思わず、呟いてしまった。
青空の一部が斬れて、穴が出来ている。どうして、今まで気付かなかったんだろうと思えるほどにハッキリと空に浮かんだソレ───地獄の門だ。
そうとしか言えないものが彼処にある。
「這い出てきたと思ったけど、空にあるのね」
独り言のように呟いた瞬間、地獄の門らしきものは移動した。あくまで地獄の門は地獄に繋がる穴であり、空に在ること事態、もはや異変ですけど。
おそらく移動した先は地上ですね。
「個魔の方、見えていましたよね」
「見えていたけど。彼処に飛べと言われても行くつもりはないわよ、あんな地獄の亡者が身体欲しさに手を伸ばしている場所、近づいただけで母者の魂も身体も消えることになる」
「それは、困ります!」
そうなると代わりに地獄の鍵を使って扉を閉じてくれる人を探さないといけないわけですが、左之助さんやドクトル・バタフライに相談することが増えました。
しかも、あんな風に移動する門だなんて私も想像していませんでしたし。やはりススハムの脚の速さを借りることになりますよね。
最悪、私は地獄の鍵を投げるしか……。
「母者、その方法はダメだと思う」
「何も言っていませんよ?」
「顔に出やすいんだよ、マジでさ」
そこまで顔に出やすいでしょうか?
それにしても地上を探していても道理で見つからないはずです、まさか空に門を開いて常世の人間を送り込むなんて早々思い付きません。
「景、空なんか見上げてどうかしたのか?」
「あ、左のす……誰ですか?」
「ムッ?ああ、今の吾の顔は此方だった」
そう言うと自分の顔を掴んだ左之助さんの偽物が顔を剥ぎ取った瞬間、奈落の風貌に代わり、ようやく「彼」がやって来たことに気付く。
しかし、やはり違和感を感じる。
「彼」は近付いてこないのだ。
「チッ。忌々しい結界だな」
「母者、アレは〝
「え?まさか……!」
武藤君や津村さんの話していた奈落って、このタイミングで、この瞬間に「彼」の身体を奪って黄泉還ってきたということになりますよ!?
恐る恐る「彼」に視線を向け、私も理解する。
この刀々斎様の残してくれた懐剣のおかげで、私は奈落に襲われることなく結界に守られている。ただ、「彼」の身体を乗っ取ったばかりの身体を持て余している。それだけ「彼」のほうが強くなっているということだ。