「……お空、きれい……」
「糸色君は高所恐怖症も患っていたのか。その事は失念してしまっていた、やはり引き返すべきか。いや、しかし、この機会を逃すわけには……」
青空を見上げて真下を見ないようにしているものの、予想外にも私の軽くて小さな身体を吹き飛ばす風は吹かず、むしろこの世の風すらも地獄の門に吸い込まれ、私達を誘おうとしている。
ドクトル・バタフライは私の事を心配していますけど。そう思うなら素直に気球を使って、私達を運べば良かったのでは?と思わなくもない。
尤もらしく理由を並べているけど。
私はシンプルに彼処に近づきたくないだけで、そもそも地獄の鍵をドクトル・バタフライに渡しておけば万事簡単に終わっていた筈なんです。
それなのに、どうして私まで空に?
「オレの腕ん中でも不安か?」
「……ぎゅってしてください」
「惚気るのは作戦終了後にしたまえよ」
私と左之助さんのやり取りに呆れる彼の視線を避けるように私は左之助さんの胸板に身体を押し付け、そうっと目を瞑ることにしました。
見えるから怖いんです。でも見えないのもまた怖いですが、見えることによって怖さが増すのは嫌なので目を閉じておくのもたまに必要な事です。
「近付いている筈なのだが、遠ざかるな」
「何かしら仕掛けがあると」
「十中八九そうだろうな」
緋村剣心と斎藤一の言葉通り、確かに違和感は感じています。あからさまに地獄の門を開けて、此方に見せつけているようにも見える。
幻術による遠近感の操作。そもそも地獄の門の姿を真似て作った可能性もあり得る。門を動かす妖怪の能力。……どれもが当てはまりそうで悩ましい。
しかし、見えるものがアレだけですし。
「糸色、どうにか出来ないか」
「……斎藤さん、私は普通の女ですよ?」
「阿呆が。お前のような普通がどこにいる」
「(私は普通のはずなんですが、戦えない私が此処にいるのも問題だと思うけど。地獄の門に近付けない理由、見えない空間に壁がある?)」
うなじに手を伸ばしてネックレスと一体化している地獄の鍵を服の中から取り出したその時、あれほど遠かった筈の地獄の門がいきなり目の前に現れた。
えっ、やだ、こわい。
「……ちょっと待て、あれ志々雄か?」
左之助さんの呟きにみんなが一斉に門を見た瞬間、誰かと戦っている志々雄真実が門の中にいた。青い炎が黒く染まり、地獄の亡者を焼き斬り、相手もまた同じように黒く染まった炎を纏う剣戟を繰り出している。
「おい、何か言っているぞ」
この距離では聞こえませんね。
「テメェのせいで俺の『うしおととら』と『からくりサーカス』が燃えて失くなったじゃねえかァ…!!」
わあ、キャラ崩壊が凄いですね。