海賊「海龍」を縛り上げて船内の倉庫に押し込めた後、神谷さん達は周囲を警戒し、御庭番衆の方々は人混みの中に消えた本条鎌足の仲間がいることを想定し、その仲間を探すために船内をしらみ潰しに捜索している。
そんな皆が忙しく動く中、私は誘拐や人質になる可能性を考慮して客室に一人で座っている。久しぶりに使うベッドに腰掛け、左之助さんの錦絵を見つめる。
「……することがない」
そう言えば独りになるのは、何時ぶりだろう。
色んな所を渡り歩いていた末に東京にやって来て、ごろつき長屋で偶然にも左之助さんと出会って、神谷さんや明神君、緋村剣心、高荷さん、色々な人と関わりを持つようになっていった。
この世界は怖いことばかりで休まる時なんて無かった筈なのに、いつの間にか安心できる人が出来て、その人と祝言を挙げる約束を交わして、きっと私は自分が思う以上に恵まれて、幸福の中にいる。
「あら、一人なんて不用心ね」
「……どうやって、ここに?」
「あの小窓から入ってきたのよ。いやー、思ったより狭くてお尻が挟まるかと思ったわ」
そこまで大きくは見えないけど。
本人の言葉だから事実なんだろうと私は納得し、どうせ逃げようとしたって手狭な客室にいる時点で逃げることは殆んど不可能だ。
「改めて自己紹介しましょうか。私は本条鎌足、志々雄様の率いる十本刀のひとり。さあ、次は貴女が私に自己紹介する番よ」
ゆっくりと私の前にある椅子を引き、そのまま座って自己紹介を始める本条鎌足は自分の不利なんて一切気にしている様子はない。むしろ、自分の強さに絶対的な自信を持っているが故に、こういう行動を出来るのか。
「糸色景、しがない物書きです。本条さん」
「ふふ、此方こそ宜しくね、糸色ちゃん。率直に聞くんだけど、貴女の描いたっていう日本を揺るがす兵器の設計図は何処にあるのかしら?」
「…………えっ、すみません。なんですかソレ?」
「糸色ちゃんが武田観柳って商人に売り込んでいたっていう新造兵器の設計図なんだけど。アレを読んだ志々雄様と方治のヤツがもっと強力な物を描けるはずだって貴女を勧誘したいみたいなのよ。ああ、それと嘘は嫌いだから吐かないでね?」
まさか志々雄真実だけじゃなくて、佐渡島方治も私を狙っているという事実に頭が痛み、ゆっくりと深呼吸して不安と恐怖で竦み、ガタガタと震える身体に力を入れて、出来るだけ自分の意識を保つ。
「確かに、武田さんに頼まれていた図案より強力な兵器の設計図は書けます。でも、私は貴女達に付いていくつもりも従うつもりもありません…!」
「……そう、貴女とは仲良くなれそうだったのに本当に残念だわ。でも志々雄様の野望のため、私達に従わない貴女は此処で死になさい」
ゆらりと立ち上がった本条鎌足は大鎌ではなく、普通の鎖鎌を取り出して構え、私の首を断つために鎌を振るった瞬間、小窓を突き破って筋骨粒々な腕が本条鎌足の腕を掴んだ。
「漸く見つけたぜ、この鎌男が」
「流石は御庭番衆、足止め役は倒したってわけね」
本条鎌足は客室の外に立つ式尉に称賛の言葉を呟き、分銅を小窓めがけて投げつけ、式尉が防御のために掴んでいた腕を離した瞬間、扉を蹴破って逃げていった。
「バイバイ、糸色ちゃん!」
「……はっ…ひえぇ…たしゅ、助かりました…」
「おう。良い根性してるぜ、嬢ちゃん」
「そ、そうでしょうか?」
彼の言葉に自分もやれば出来るんだと少しだけ自信を持つことが出来たけど。この壊れた窓枠と散乱したガラスの残骸はどうすれば良いんだろうか。