「この度は凍死寸前の危ないところを助けて頂き、ありがとうございます。私、岩息舞治と言います。いやー、実に素晴らしい筋肉をしていますね!」
「お、おう、相楽左之助だ」
ニコニコと笑っている岩息舞治と握手を交わす左之助さんの戸惑う姿を可愛いと思うものの、あんなにベタベタと人の旦那様を触るなんて酷いです。
でも、こう、筋肉質な殿方同士のぶつかり合う姿にはトキメキを感じるものがあります。きっと岩息舞治も左之助さんに私と似た事を思っているのでしょう。
「相楽さん、不躾で悪いのですが」
「なんだ?」
「私を殴ってくれませんか?」
その言葉に左之助さんはピシリと固まり、しとりは小さなマグカップを両手で握ってココアを飲みつつ、二人の事を不思議そうに見上げています。
多分、私も困っていますね。
彼のマゾヒズムとサディズムの性質は知っていますけど。まさか初手でそんなことを言い出すなんて予想外ですし、人間はそう簡単に変わらない生き物なんだと理解できた。
「岩息さん、不躾過ぎます。先ずは私達にも分かるように言って貰えますか?」
「嗚呼、それは失礼しました。久々に出会えた強敵に私も我を忘れて申し訳無いです。私、人をぶん殴ることが大好きなんです」
「……要するに喧嘩屋って訳か?」
「えぇ、そうとも言えるでしょう。肉体と肉体をぶつかり合う喧嘩という対話。これこそが私の求めるものだと知り、最近は強い人を求めて日本各地を放浪し、戦い、闘い、数多の友情を育んで来ました」
おそらく、岩息舞治の語る友情は「友情(物理)」という感じなんでしょうね。しかし、強い人と喧嘩をするために日本各地を放浪するなんて私と出会う前の左之助さんみたいですね。
「左之助さんと喧嘩したいということですか?」
「概ねその通りです、奥さん」
「お、奥さん…♪︎」
とても素敵で良い響き。
私は奥さん呼びされるのは好きかもです。
「まあ、言いたいことは分かった。引き受けてやるよ、この日本最強の喧嘩屋がな」
そう言うと背広とシャツ、ネクタイを一瞬で脱ぎ捨てる左之助さんに某極道ゲームを思い出す。みんな、個性豊かなスジモンばかりでしたね。
「やはり、貴方は素晴らしい!!」
岩息舞治も同じように背広とシャツ、ネクタイを一瞬で脱ぎ捨てると二人は同時に右拳を振り抜き、クロスカウンター気味にお互いの顔に拳をめり込ませ、振り子のように頭が後ろに弾けた。
しとりとドンと親分を連れて、部屋を出る。
良かった。こうなると見越して、ドクトル・バタフライの研究所を借りて、個魔の方は呆れて影の中に戻っているものの、二人のパワフルな殴り合いを真剣にじっくりと観戦している。
「うおおおおおおおっ!!!」
「ぐおっ、がはあっ!?」
タックルを受けた左之助さんは背中で窓を突き破り、そのまま二人して窓の外に転がり落ちていき、少し雪の積もった研究所の施設内の広場で、また壮絶な足を止めた殴り合いを再開する。
男の人ってすごいなあ……。