拳で語る 序
「オオオオオオオオオオッ!!!」
がなるように歓喜の咆哮を上げる岩息舞治はどっしりと腰を沈め、ベタ足のまま全体重を拳に乗せて振り抜き、左之助さんの左頬を打つ。
ゴツッ…!と鈍い音が此処まで聴こえる程に重く重厚な拳骨を受け、あの不破の打撃でも怯まなかった打たれ強く頑丈さなら人間の外側に踏み込んでいる左之助さんがぐらつき、僅かに足腰を震わせた。
左之助さんが倒れ───否、左拳を地面から掬い上げるように彼は拳を真っ直ぐ空を打つように振り上げ、岩息舞治の分厚く角張った顎を叩き潰す。
「ホウ。低空スマッシュかね」
「いえ、左之助さんの我流パンチです」
蒙古の力士に競り負けたとき、米国のインディアンと殴り合ったとき、他の国や地域で繰り出していたものより確実に衝撃は伝播し、二重の極みは極った。
「良い!良いイィーーーッ!!!最高だ、相楽さん!もっと、もっとオォォッ!!私に貴方という人間の全てを教えてくれエェ!!!」
しかし、今回の相手はあの岩息舞治である。
打たれて喜ぶ。
打って喜ぶ。
もはや変態の完成形とも言える岩息舞治は豪腕を右横薙ぎに振るい、咄嗟に両腕を十字に組んでガードした筈の左之助さんを吹っ飛ばす。
「もおオォォッ!!いっぱぁぁぁつッッ!!!」
続け様に左足を踏み出し、腰をねじり、爪先から生じる破壊力を右拳に集束した拳骨で左之助さんをぶん殴って、力任せにガードを抉じ開けた。
スマートさを捨てた泥臭く愚直な戦い方。前へ前へ、ひたすら前進を続ける姿は一種の憧憬を作り出すのかも知れませんね。
「いってえだろうがァッ!!」
「ぐふおぉっ!?」
赤く腫れ上がった腕を振りかぶる。
左の拳を斜め上から叩き落とすように顔に打ち、その反動を利用して右の二重の極みを腹部に食らわせ、更に深く力強く踏み込み、引き絞ったみ二度目の右の二重の極みが岩息舞治の顔面に撃ち込まれた。
「し、しあわせだぁ…!」
そう笑いながら岩息舞治は仰向けに倒れた。
「ペッ、顎が痛てえな」
「お疲れ様です、左之助さん」
傷だらけの左之助さんに駆け寄って、血で汚れた彼の顔を優しく手拭いで拭きつつ、雪の降る中でも蒸気を発して笑顔のまま気を失っている岩息舞治を見下ろす。
人間、突き詰めると凄いですよね。
「ドクトル、岩息さんはお願いしますね」
「……まあ、Ladyに半裸の変態を背負わせるのはダメだろう。なにより断ると左之助君が怒りそうだからね。仕方ない仕方ない」
わざとらしく私達を見て呟くドクトル・バタフライに顔が熱くなる。た、確かに左之助さん以外には触れてほしくないですけど。
そういうわけで言ったんじゃないんですよ?