左之助さんのパンチの虜になってしまった岩息舞治の行動は凄かった。
彼は左之助さんが交易商を営んでいると知るなり、身なりを整えて面接し、肉体労働から事務作業まで率先してやり始めるという献身を見せつけてきました。
私も負けていられません!
その想いと熱意を込めて、しとりに頼んでいたお弁当運びをまた一緒に再開して、歩くだけでも辛いですが、なんとかお昼には間に合うようにしています。
「左之助さん、今日もお疲れ様です」
「ああ、ありがとうな」
お箸を使ってだし巻き玉子を頬張る左之助さんの隣に腰掛け、長谷川君と井上君を叱咤激励する久保田さんの事を眺める。ちょっとやり過ぎている様にも見えますけど。多分、あれも愛情表現なのでしょう。
しとりも三人に会えるのは楽しそうですし、お弁当を届けに来るようにしたのは正解ですね。
「相楽さん、お昼にしましょう!!」
「帰れ。あっちと食ってろ」
「彼らとの語らいは有意義ですが、やはり私は相楽さんと友好を深めて、またぶん殴り合う最高の時間を共にしたいのです!」
「オレも喧嘩は好きだがお前は……なんか、こう、別の意味で身の危険を感じるんだよ」
そう言って切り干し大根をボリボリと音を立てて咀嚼する左之助さんに湯呑みを差し出すと「くっ。やはり普通の妻子持ち故に生死を懸ける今際の際の多幸感を忘れてしまっているのか!」なんて事を呟く岩息舞治に首を傾げる。
死ぬ瀬戸際なら何度も体験しています。
それに私は左之助さんとしとりのおかげで生きていけるのに、この人は何故そうまでして私の左之助さんに固執するのでしょう。
「おい。コイツの前で死ぬとかそういうのを簡単に言うんじゃねえよ。ようやく心臓の病が治ったばっかなのにテメェに付きまとわれてまたオレの女房が倒れたらどうするつもりだ?」
私の事を抱き寄せて、そう告げる彼の目付きは出会った当時のように鋭く全てを憎んでいる。あるいは、全てを敵と見なしていたときの顔付きだった。
「───ッ。申し訳無い、確かに付きまといすぎていました。奥さん、貴女の事情も知らずに軽はずみな言葉を口にしてしまった」
「……フフ、良いですよ。でも、左之助さんにも都合や家族が居ますから毎日お誘いされるのは困ります。なので、左之助さんのお友達をご紹介します」
そう言うと岩息舞治はキラキラとした羨望の眼差しを私に向けてくるけど。すごいのは私じゃなくて、左之助さんですからね?
「ど、どのような人を……!」
「不破信二という人です。不服ですが、左之助さんにも勝ったことのある人ですので、きっと岩息さんの期待に応えてくれますよ。ドクトル……お髭の人の屋敷に今日も居ますから」
私の言葉に雄叫びを上げると岩息舞治は律儀にニシンの漬け物と白米と玄米を混ぜたお米をギッシリと詰め込んだお弁当を食べ始める。
ご飯は大事ですからね。