「高祖母様、準備は終わりました」
そう言って現れた賛さんはメイド服でした。
あれが彼女の正装なのでしょう。
「はい。では、始めます」
ドクトル・バタフライによって引きずられてきた不破信二は不服そうな表情で賛さんの前に立っています。彼としては男女問わず強かったら戦うことを信条としていますが、流石に私と同じくらい小柄な彼女を殴ることには抵抗を感じているようです。
まあ、そういう感性を失っていたら二度と我が家の敷居を跨げるとは思わないことですが、ドクトル・バタフライも「賛さんを強くするために強者と戦う事こそが最適解だ」とは言っていますけど。
不安です、相手は修羅ですよ?
しかも賛さんは不破信二と戦った後、ススハムと戦う予定なのに……だも、うっすらと彼女の纏う気配は人の物とは違いますし、封印か枷を開くには荒療治は少しばかり必要とドクトル・バタフライはそう判断している。
「糸色賛、参ります」
「……へえ、急に変わるな。良いぜ、来な」
賛さんはスラリと右手を後ろに引き絞り、左手を突き出して照準を合わせるように構える。やはり、あの構えは斎藤一が素手で牙突を放つために取った構えだ。
対して、不破信二はオーソドックスに左右の手を開手のまま顔の傍に置き、どっしりと腰を落として構えている。投げや受けに適した構えとも言えますが。
「はあっ!!」
タンとスカートの裾を押し上げるほど素早く踏み込み、拳の第一・第二の関節を折り曲げた熊手───二重の極みを放つための拳を繰り出す。が、不破信二は賛さんの手首を軽く手の甲で弾き、二重の極みを決める衝撃を殺し、がら空きの顔に向かって右肘を打ち下ろした。
「あぐッ、まだです!」
「ハッ。カポエイラかよ!」
メキリッ!と鈍く嫌な音を響かせ、彼女の身体がぐらつき、片手を地面に付けると同時にスカートを翻しながら、賛さんは側転のようにも見える蠍蹴り、あるいは超低空から繰り出した回し蹴りを不破信二の顎先に食らわせた。
しかし、続けざまに追随する二度目の蹴りは不破信二によって捕まり、片足一本背負いのように振り上げられ、地面に叩き落とされ───否、地面に二重の極みを撃ち込み、衝撃を相殺し、賛さんは不破信二の右腕に身体を巻き付け、腕ひしぎ十字固めを極める。
驚異的なバトルセンスに感嘆の吐息をこぼす私の足元にいるしとりはキラキラとした眼差しを賛さんに向け、その不破信二すらも手玉に取ってしまう鮮やかな動きに憧憬にも似た感情を向けている。
「どうします、腕をへし折りますか?」
「組んだら即座に折るのが定石だろうが」
そう言うと不破信二は握り拳をコツンと賛さんの顎に添えた瞬間、彼女は鼻血と血涙を噴き出して、地面に倒れ伏してしまった。
「賛さんッ、不破さん流石にやりすぎです!」
「今のは、何かね?」
「無空波。ただし、相楽に勝つために改良した片腕版の未完成品だぞ?アイツとやるなら最低でも両手は使える状態じゃねえとなあ…!」
獰猛な笑みを浮かべ、不破信二は笑った。
やっぱり、修羅って怖いです。
そう余りの恐ろしさに身体をカタカタと震わせながらも喉奥に溜まった血を吐き出させ、気を失っている彼女の身体を支える。
ススハムだけ頼んでおけば良かったんです!