賛さんはススハムと戦う事を譲らず、癒えたばかりの身体の調子を確かめるように丁寧に念入りに入念にストレッチを行う彼女の事を静かに応援する。
ススハムは不破信二と違い、手加減を使える人です。いきなり奥義を叩き込んで来るような野蛮な事はしないでしょうし、ほんの少し安心できます。
「宜しくお願いします」
「アタシとやるのは良いけど。友達の子孫を蹴るのは物凄く不本意なのよね…」
そう言うとススハムはアイヌ民族のマタンプシ(アイヌ民族の鉢巻き)をほどき、トン、トン、と軽く跳ねて動きを確かめる。
彼女の速駆けは神速を越える縮地さえ到達できない最高速度の世界───音速の先に踏み込めるとドクトル・バタフライは解説し、私も一度だけ体験している。彼女の駆ける世界は溶けるように景色は移ろう。
「音速の衝撃って、痛いわよ?」
その言葉を告げると同時にススハムの姿は一瞬で消え、賛さんは攻撃する位置を予測していたのか。ススハムの飛び横蹴りを受け止め、ススハムの姿がまた消える前に拳を繰り出した。
しかし、その拳を踏み台にしてススハムは跳ねるように身を翻し、空中で軌道を変えて駆け出す。自分の足を蹴って軌道を無理やり変化させ、擬似的に空を蹴っている様に見せている。
「面白いです、ススハム様…!」
「あら、そう?」
普通に考えれば戦意喪失してもおかしくない状況だというのに賛さんは笑みを深めた、そのときだった。彼女の髪は白く染まり、僅かに獣の耳に見えるものが頭の上にうっすらと見え始める。
それに、あの雰囲気と気配は────。
「(白面の者…?いえ、彼女は玄孫と考えると平成ですから彼女の祖母か母親のどちらかが白面の者と深い関わりを結んでいると考えるべきですね)」
「妖怪変化。信二の馬鹿はその姿を引き出す前に貴女を倒しちゃったわけか。OK。その姿が───光速の衝撃に追い付けるのかを試してあげるわ」
「ススハムさん、怪我させるのはッ」
「黙ってなさい。あの子の腕試しよ」
私の言葉を遮ったススハムの言葉に口を噤み、しとりと一緒に身体を沈め、クラウチングスタートのように真っ直ぐ駆け抜けるのが分かるポージングになり、ふたりとも静かに呼吸を整えている。
「よーい、どんっ!!」
〝一歩音を越え、二歩無間〟と、そう形容できる程に凄まじく鋭く早く速く疾く迅く駆け抜け、賛さんを中心に置き、回転し始める彼女の加速する姿に思わず、私はゴクリと唾液を飲んでしまう。
───刹那、賛さんの身体は傾き、空中に向かって縦横無尽に軌道を変えて現れるススハムによって蹴り上げられていき、トドメの最高高度からの飛び蹴りが叩き込まれた瞬間、賛さんの身体に変化が起こった。
獣の耳と尻尾が生えた。
ケモ耳メイドさん、可愛いです。
そう思っている私の目に映ったのはススハムの攻撃に耐えきり、反撃の二重の極みを撃ち込み、ススハムを逆に地面に殴り落とす賛さんがいた。
「ゲホッ、想像以上の拳だったわ」
「……この、全能感は凄いです。これなら奈落にも勝つことが出来そうです、ススハム様のおかげ、ありがとうございます」
「やめてよ、恥ずかしい」
……みんな、あんなに戦ってどうして仲良くできるのかな。私は怖さに負けて愛想笑いも浮かべられず、逃げ出してしまうかもしれないのに……。