神谷活心流に緋村剣心が居候して一週間が経過し、ごろつき長屋の私は今日も平々凡々と世の奥様方や女学生のために喧嘩も強く凛々しい顔立ちの左之助さんの春画を描き、風景画や水墨画は収集家に売り込み、細々と懐を温める日々を過ごしている。
「糸色、飯くれ」
「ひゃあっ!?」
のっそりと回転窓越しに話し掛けてきた左之助さんに驚き、水桶に浸けていた木製のお椀を落としそうになる。木製のお椀のため落としても割れないけど、なんだか落とすとその日は不機嫌になるので。
あまり食器は地面に落としたくない。
ソッと胸元を手のひらで押さえるように深呼吸を繰り返し、いきなり話し掛けてきた左之助さんに文句を言おうと見上げる。赤い鉢巻に血が滲み、よく見れば怪我を負っている。
「ちょっと怪我してるじゃないですか!?」
左之助さんの怪我に慌てて戸を開け、彼を部屋に連れて入るなり、私は左之助さんの服を脱がせて傷の具合を確かめる。頭の傷は投石か固いもので殴られた形跡、脇や腕の傷は刃物による裂傷である。
「左之助さん、まさかとは思いますけど。剣客警官隊と喧嘩したんですか?」
「おうよ。ちゃんと勝ったぜ」
「……はあ、威張れることじゃないでしょう」
緋村剣心と戦ってきたのかと一瞬不安になった私がバカみたいじゃない。そんなことを考えながら、縫い針と糸を使って傷口を縫合し、その上に少しキツめに包帯を巻き付けていく。
こんなものは見様見真似。一応、出来る限りの応急手当だから後で歴とした真面目で面倒見の良いお医者さんに行ってもらうことになる。
「流石の手際だな」
「傷の手当てなんて慣れたくないですよ、私だって。あと夕御飯には早いし、おにぎりしか作れないけど、食べる?」
「それでもオレは助かってる。糸色の握り飯は小さいが美味いから好きだぜ」
そう言って笑う左之助さんに溜め息を吐く。
「……女誑しの常套句ですよそれ」
そんなものはよく街を出歩く羽振りの良い女に近付くために男の使う常套句。左之助さんにホストじみたことが出来るとは思えないけど。
顔もスタイルも良いのよね、左之助さん。
そもそも私に羽振りの良さを求めるのはお門違いだ。確かに貯蓄はあるけれど。毎日のようにご飯を貰いに私の部屋を訪れる左之助さんには、ほとんど無関係の話……ということもないのか。
「いつか刺されますよ、左之助さん」
「なんでだよ」
唐変木の朴念仁。
私の言葉に首を傾げたまま、もっさりとした大きなおにぎりを頬張り、沢庵をバリボリと心地好い音で噛み砕く左之助さんは三度のご飯と喧嘩好きという以外は女性にあまり興味がないのかも知れない。