本条鎌足は蒸気船を追尾していた小舟に飛び移り、見事に御庭番衆の包囲網を掻い潜り、逃げ仰せてしまったけれど。
私も荷物も無事だった。それから数日ほど経ち、私は妙さんの姉妹である冴さんの経営する「白べこ」に泊まる神谷さん達と別れ。
それから私は御庭番衆の表向きの拠点・料亭「葵屋」に泊まり込み、ニトログリセリンの染み込んだ木屑を丁寧に筒状に梱包し、その上に破損を避けるために糊を塗った和紙を重ねる。
あとは、ゆっくりとダイナマイトの片面に雷管を差し込み、左之助さんのために用意したダイナマイトの準備を漸く終えるのだった。
「…ふう…」
「これが爆弾なのか?」
「はい。この導火線に火を点けると雷管内の火薬に着火し、木屑に染み込んだニトログリセリンに衝撃を与え、炸裂弾を上回る破壊力を出します」
「成る程、完全密封の理由は誤爆防止というわけか。……しかし、我ら御庭番衆には派手すぎる上、携帯の難しさも加わるとなれば使い方は限られるな」
「元々は土木作業のために開発したという話を……コホン、これは話しちゃいけないヤツでした。般若さん、今のは忘れていただけませんか?」
まだ時代的にダイナマイトその物は到来していないけれど。ダイナマイト開発の経緯を知っているとなったら、また怪しまれるかも知れない。
もう訝しげに見られるのはイヤなのである。
「忘れるのは構わないが。やはり糸色殿の知識の深さは興味深く、我ら御庭番衆を上回る情報収集の秘密、いずれ教えて頂きたいものだ」
「そ、そんな大層なものじゃないですよ」
未来の知識を教えるとか無理です。そもそも未来の内容を知っているとか言ったら、余計に御庭番衆の方々も大変な事になる。
「ところで、次は何を書いているのだ?」
「えっと、東京で連載している『うしおととら』の続きを書いているんです」
「ふむ、武田観柳の屋敷で見た記憶があるな。魑魅魍魎の跋扈する世界で闇さえも呑み込んでしまう太陽のごとき少年の姿が印象深く残っている」
「そう!そうですよね、分かります!」
般若の「蒼月潮」君を称える言葉に思わず、大きな声を出して肯定してしまう。でも、それほどまでに『うしおととら』を好きになってくれたことに喜びを感じ、私は嬉々として般若の手を握っていた。
「……余り無闇に女人が男に触れるな」
「す、すみません」
いくら護衛のために私の傍にいるとはいえど相手は御庭番衆、しかも左之助さんと戦ったという話を明神君に聞いている私からすれば全員のは大したことなかったってことやろうし。