「母子共に健康状態だが些か栄養不足だね。糸色君、子を思うならもう少し食事の量を増やしてみるのも良い。私の方でも食材は用意しよう」
「すみません。ありがとうございます」
「……ところで、何故左之助君ではなく藤田君を連れ添っているのか聴いても良いのだろうか?」
「蝶野、お前に一つ聴きたい。人造の化け物には必ず章印があるのだな」
その問いかけに空気の重みは増し、嫌な予感を抱きながらも私達に背中を向けて話し続ける斎藤一。
ひみつ道具「お医者さんカバン」の診察の正確性を高めるために、素肌に聴診器を当てる必要もあり、着物をほんの少しだけはだけているので配慮して貰えるのは凄く助かります。
ただ、ドクトル・バタフライは私の身体を使ってひみつ道具の性能を確かめているような気もするので、あまり診察に時間を掛けるのは嫌だなと思う。
まあ、それは気のせいでしょうけれど。
「ホムンクルスの出現。そう捉えても?」
「構わん。昨晩、アイヌの集落に熊の身体に人の頭の生えた化け物が、ウェンカムイが現れたと騒ぎ、ここまで逃げてきた奴らがいた」
「ま、まさか、ススハムさんの?!」
「いや、あのタカ女の集落は別だ。だが、少なくともその化け物が実在するなら、次に狙われるのはアイツの暮らす集落になる」
その言葉に頭が痛み、ふらつきながらドクトル・バタフライに手を借りて診察室の寝台に乗せて貰い、暫く休むように言われてしまった。
うぅ、こんなときに申し訳無いです。
「私が出向くのが最適だろう。しかし、アイヌの集落に出現するとは中々に姑息かつ狡猾な相手だ。山の中に点在する集落は外界と隔絶し、助けを呼ぶにもアイヌの言葉を話せる和人は一握りもいない」
「嗚呼、そこでお前の出番だ」
「わ、私ですか?」
「お前はアイヌとも親しい。注意喚起、もしくは熊の化け物を警戒するように伝えれば、昨晩よりも被害を減らすことは出来る筈……そのつもりだったが、お前は相楽と安全な場所に籠っていろ」
「妊婦の君は安静にしていなさい。こういう荒事は君の最も苦手とするものだろう。ホムンクルス相手なら章印を砕くだけで事足りるさ」
二人の言葉に安堵したものの。今も努君と遊んでいるしとりのことが心配で窓の外を見ようと身体を起こす。が、ドクトル・バタフライに肩を掴まれて眠るように言われてしまった。
「藤田君、御子息に刀は?」
「護身用の倭杖だけだが、アイツは俺の息子だ。ホムンクルスごときに遅れを取ることはない。あの年で既に努は牙突を使えるからな」
……それはもう神童の領域なのでは?