私達は外の騒動を聴きつつ、スヤスヤと何事もないように眠っているしとりの事を撫でる。左之助さんはもうすぐ到着すると時代樹の精霊は言うものの、外の見えない私には判断する方法がない。
「父者が来たみたいだ」
しゅるりと黒衣の壁を消した個魔の方に視線を向け、窓を見ると巨大な熊の横頬を殴り付け、力任せに拳を振り抜き、熊のホムンクルスを叩き潰している左之助さんの姿が見えた。
ものすごいドガァンッ!とかバギャアッ!なんていう打撃音を聴き、私達の動きは止まった。左之助さんのパンチの重さがもう人間の範疇を超えてしまっている?
ゆっくりと舞い上がる土煙をぼんやりと眺める私の肩を触り、「さっさと移動するわよ」と言う個魔の方にうなずき、いそいそと眠ったままのしとりを彼女に抱っこして貰い、居間の方に避難した。
しかし、左之助さんの人間離れがすごくて不安になってしまう。このまま戦い続けていたら、鬼になってしまいそうで不安です。
『あの愚物が私の依代に傷付けたな。糸色、私は家の守護に戻る、お前も逃げるか相楽左之助があの愚物熊を倒すために準備をしておけ』
そう言って私の頭に触れた時代樹の精霊は居間の大黒柱に戻り、それと同時に家の回りを駆け抜ける熊の胸部に人の顔が生えているのが見え、やはりホムンクルスだった事に溜め息を吐く。
「個魔の方、外に行けますか?」
「……囮になるとか言ったら殴る」
「そ、そういうのじゃないです!おそらく、あのホムンクルスは私を狙っていますし、左之助さんもここじゃ蛮竜を満足に振るうことは出来ません」
「ビビリの泣き虫の癖に、仕方ないわね」
私としとりの身体を黒衣の中に取り込んだ個魔の方は窓を開け、飛び出すと月明かりに照らされて出来た影を移動し、私の匂いに気づいた熊のホムンクルスと左之助さんに視線を移す。
「母者、どうする?」
「坂道で引き返しましょう」
「はあ、本当にビビリの癖に度胸はある」
「私はこれでも母ですから」
きっと、これから怖くても立ち向かえるようにならないといけない。左之助さんやしとりに助けてもらうのではなく、私は一緒に歩いていけるようにならないといけないんです。
「坂道、引き返すよ」
そう言うと個魔の方は影の中に潜り込み、次に頭を出す頃には左之助さんがホムンクルスを真っ二つに切り裂き、章印を二重の極みで殴り砕いていた。
「やっぱりすごいわね、蛮竜」
「そうです。左之助さんはすごいんです!」
「景、さっきの消えるヤツはなんだ?」
「え?あ、これは個魔の方に」
「父者に私は見えないぞ」
その言葉を聴いた瞬間、私の身体を包むように左之助さんの身に付けていた防寒具を着せられ、お腹を労るように「個魔の方ってヤツは見えないけど、此処にいるんだろう?安全に家まで送ってくれ」と彼は言い、私の身体を個魔の方に預けてくれた。