核鉄の治癒力のおかげもあって全治五ヶ月は掛かりそうな骨折は二週間という短期間で完治し、春も終わった初夏のとある日のことです。
左之助さんは鈍った右腕の感覚を直すために片腕倒立腕立て伏せなんていう漫画やアニメでしか見たことのないトレーニングを行っています。
その隣で胴着に着替えたしとりも倒立しようとして、こてんとバランスを崩して前転のように転がり、可愛らしく小首を傾げて左之助さんを見つめる。
フフ、まだしとりには難しいですね。
私も腕立て伏せは精々四回が限度ですし、スクワットなんて二回か三回出来れば拍手喝采を受けたいと思えるほど大変ですし、腹筋なんて一回も身体が持ち上がらず、左之助さんにも呆れられてしまう程だ。
「個魔の方、しとりを補助して上げて欲しいです」
「いや、もう断られてしまったわ。せめて一回くらい自分でやってみたいんだって」
「……しとりは頑張り屋さんですねえ」
「まあ、母者みたいに無理しないからな」
「無理はしていませんよ?(むしろ無理をしないように心掛けているのに、色々と面倒事に巻き込まれてしまうだけで……本当に何故私を狙うのでしょうね)」
「無理してるから言っているのよ。それに私は母者や嬢ちゃんが居なくなっても、ずっと貴女達の一族を見守り続けるつもりだから」
なんだかドクトル・バタフライみたいなことを言いますね。けど、確かに個魔の方の様にしとりを優しく見守ってくれるお姉さんがいるのは良いのかも知れない。
「ん!できたー!!!」
「あらあら」
「流石は父者の娘、運動神経バツグンだな」
しとりは大きな声で倒立できたことを教えてくれ、私と個魔の方はパチパチと彼女に拍手を贈りつつ、転ばないように見守る。
えぇ、本当に私のひ弱で貧弱で脆弱で虚弱な身体に似ずに元気溌剌で天真爛漫に笑顔を振り撒く女の子に生まれてくれて本当に嬉しいです。
この子が生まれたらいっぱい遊んであげてね。
「しとり、危ないぞ」
「ん!だいじょぶ!」
「そうか」
「ん!!」
三歳なのに倒立できるしとりを褒めたいけど。褒めたらもっと危ないことをするんじゃないかという不安を抱えながら、ドクトル・バタフライに新しく遊べる場所をお願いするべきでしょうかと考える。
ゆっくりと倒れずに座り直したしとりは汗だくになっている左之助さんに近づこうとするので「しとり、危ないから此方に来て」とお願いをする。
「ん!なぁにぃ?」
「フフ、しとりをぎゅうってしたかったんです」
「しとりもぎゅーっする!!」
お腹を傷付けないようにしゃがみ、しとりを抱き締めるとしとりも嬉しそうに抱き締め返してくれた。フフ、とっても温かいですね。