初夏。
草木も瑞々しく光合成を繰り返し、虫も元気に飛び回っている山奥に移転したドクトル・バタフライの研究所。虫除けの特殊な音波を発しているらしく、私やしとりの怖がる虫は一切出てこない。
流石はドクトル・バタフライ、配慮の仕方も紳士的です。ススハムは虫に怯えるどころか食材として扱っている。まあ、昆虫食は前世でも有名だったので、今更なのでしょうけど。
苦手なモノは苦手です。
この子に会えるのもあと一ヶ月ですね。
左之助さんは仕事に向かうため会えるのは一月の内の数回で、ドクトル・バタフライとしても私の体調を考えると山奥に引きこもっているのは良くないと考えていることは知っている。
でも、錬金戦団の襲撃を受ける場合を想定し、こうして山奥の研究所に居るわけです。
「糸色君、そろそろ『キテレツ大百科』の発明品を試そうと思うんだが、良かったらまた発明品の設計図を描いて貰えるだろうか?」
「……悪用しないのは知っていますけど。ドクトルは何処を目指しているんですか?」
「ふむ、目指すものかね。私はハッピーエンドを迎えている姿を見るのが好きなんだ。もっとも人を喰らうホムンクルスの戯れ言だが……」
「ドクトルは人を食べずに過ごしていますし、私の数少ないお友達です。ホムンクルスになっても妖怪になっても貴方の代わりはいませんから」
私の言葉に一瞬だけ戸惑う様に笑ったドクトル・バタフライは「きっと、そういうカンダタの糸のような光明が彼らを惹き付けるのだろうね」と言われた。
しかし、カンダタの糸と言われましても私はお友達や家族を大切に思っているだけで、他の人は二の次三の次と考えてしまう薄情な女です。
「母ちゃん、むしいた!」
「ひぇっ?!」
「ん!こまちゃんがやっつけた!」
「どんな虫がいたのかね?」
「え、えと、個魔の方」
「……虫の妖怪だよ、アイツら偵察に来てた」
虫の妖怪?
まさか婢妖が獣の槍と間違えて蛮竜を狙っているのかな?と首を傾げながら悩みつつ、ドクトル・バタフライにも個魔の方の言葉を伝える。
一応、蛮竜には結界もありますから婢妖に見つかったりすることはないと思うけど。左之助さんのところに向かっているかも知れないのは不安です。
しかし、どうやって左之助さんに伝えたら。
「糸色君、案ずる必要はない。左之助君が婢妖に負けるわけがないだろう?」
「そ、そうだけど、でも」
「それに婢妖の目的は獣の槍。蛮竜に群がる訳ではないのだから不安に思う必要性は皆無だ」
そうドクトル・バタフライは言い切った。