翌日の朝。
左之助さんと長谷川君達は仕事に向かい、私としとりは四人をお見送りする。長谷川君と井上君のアプローチを久保田さんはいつまで躱すのかな。
三人の大切な関係なのに少しだけワクワクしている私に「景ちゃんさん、なんか助言とかある?」とぎこちなく聞かれ、「お弁当やお菓子でお話しする場所を設けるのは良いかもです」と伝える。
私の時はボロボロになっていた左之助さんを手当てして、気付いたら一緒に過ごすことが増えて、傍に居てくれないと不安にもなっていましたから。
「景、行ってくる」
「はい。いってらっしゃい」
「んむぅ、がんばぇ」
ヒラヒラとまだ眠たいのに「いってらっしゃい」を伝えるために起きているしとりの隣に座り、クローゼットを通って函館に戻っていく四人を見送り、クローゼットの扉を閉め、しとりをベッドに連れていく。
「もうちょっとだけ寝ましょうね」
「んぅ…」
初夏を迎えても肌寒さの残る北海道。
湯タンポをドクトル・バタフライに頼んでみましょうか?と思いつつ、スヤスヤと可愛い寝顔を見せてくれるしとりのお腹を布団越しに優しく叩いて、もっと深く眠らせてあげる。
私は半纏を身に付けて、ドクトル・バタフライの研究室を訪ねるために病室を出て、廊下を歩いているとドンと親分も着いてきてくれる。
フフ、心配してくれるんですね。
「ドクトル、おはようございます」
「Good Morning。今日は血色が良いようだね」
「そう、でしょうか?」
自分では分からないけれど。
ドクトル・バタフライがそういうのなら事実なのだろうと思い、フラスコや試験管、蒸留器を通る赤い液体は天狗の抜け穴の原液。まだ彼は発明品の改良を繰り返しているようです。
「しかし、濃度を上げる程に長距離間の移動を可能とする。このまま蒸留を続けていけばその内月にさえ手が届いてしまうかも知れないな」
「フフ、そのときはお土産を楽しみにしています」
「なんだ。着いてこないのかね?」
「私は人間なので宇宙空間はさすがに」
「……それもそうか。だが、かぐや姫も月に帰ってしまうことを考えればそうなるのも仕方ないか。……かぐや姫で思い出したが、あの『物語』は現れないね」
「『月光条例』……ですね」
確かに他の二つは既に出会っていますけど。あの「物語」に登場するキャラクター達には出会えていない。ひょっとして出会わないのでしょうか。
それなら良いのですが。
「月光条例」たる「青き月光でねじれた『おとぎばなし』は猛き月光で正されねばならない」の条文。この言葉の通り、一度でも壊れてしまった「おとぎばなし」は直さないといけない。