ここ数日ほど函館の我が家に戻っているけれど。左之助さんは毎日私に会えるから嬉しく思う反面、また私が事件や怪しいことに巻き込まれるんじゃないかと不安になっている気がします。
早々巻き込まれることはないです。
「お父様はいつまで御滞在ですか?」
「とりあえず、志葉家に話をつけるまでと、しとりちゃんに会えるのも嬉しいからね」
「ん!じいじすき!」
「でへへぇ~っ、じいじも好きだぞぉ!」
「んにゃー!」
にんまりと緩みきった笑顔で頬擦りするお父様と擽ったそうに笑うしとりを眺めつつ、今夜の献立を考える私の傍に個魔の方が現れる。
何故か不満そうだけど、どうしたんでしょう。
「どこか痛いの?」
「いや、怪我している訳じゃないけど。少しだけ不満を言えるなら爺さんは私の気配に気付いているのか、たまに威圧してくるのよ」
「能の花形を務めていますし。お父様は視線に敏感なのかも知れませんね。ところで、トンカツにしようと思うんですが大根を擂って貰えますか?」
「和風トンカツ、私も好き」
「フフ、それは良かったです♪︎」
そう言うと私は卸し金を個魔の方に渡して、葉を切り落とした大根を差し出す。
ゴリゴリと大根の削れる音を聴きつつ、脂身を溶かしてお鍋に油を溜める最中、私もパンを卸し金で削り、出来立てのパン粉を用意し、続けるようにキャベツを千切りにして桶の水に千切りにしたキャベツを浸け、お肉を少しだけ厚めに切り分ける。
卵を割って、菜箸を使って黄身と白身を混ぜて、、軽く小麦粉を振りかけた豚肉を溶き卵に浸け、パン粉を纏わせて、油の中に投下する。
ジュワアァァ…!と心地好いお肉の揚がる匂いに釣られたのか。お父様としとりまで台所にやって来て、私の作っている後ろ姿を眺めている。
「景、それは南蛮料理かい?」
「はい。洋食のトンカツです」
「ハハ、娘の手料理を食べるのは何時ぶりだろう」
「(八年と百七十一日二百六時間三十七分二十秒です)……さあ、何時ぶりでしょうか?」
こんなことを言ったらビックリされますから、私は言ったりしません。これも『特典』の影響ですけど、私は絶対に忘れないんです。
「よいしょ」
揚げたてのトンカツを新聞紙の上に置き、油を切りながら三つ目、四つ目を油の中に入れていく最中、しとりがキラキラした眼差しを私に向けている。
私は生肉を切っていない二本目の包丁を取り出して、ザクッ、ザクッ、と音を立てるトンカツを切り分けて、小さなお皿に盛り付け、フォークをしとりに差し出す。
「味見してくれる?」
「ん!やるぅー!」
「パパも味見したい」
「お父様は大人なのでダメです」
私の作ったトンカツを美味しそうに食べてくれるしとりに微笑みつつ、個魔の方にも味見をさせるしとりの優しさにもっと嬉しくなります。