「糸色君、少し言いかね」
「はい」
「此処に名前を書いて貰いたいのだが」
「ここですか?」
ドクトル・バタフライの指差す場所にいつものように名前を書き綴ったものの、私の名前は紙に染みることはなく無色透明のままだった。
特殊な光るインク。成る程、神通鏡を使わないと見ることの出来ない様に細工を施すわけですね。しかし、そういうことは事前に教えて欲しいです。
「ふむ、正常に機能しているね」
「モノクルなのは趣味?」
「趣味だね」
「そうですか。私にも貸して貰えますか?」
「うむ」
私は特殊な光るインクの文字や絵を見ることの出来るようになる変わった遮光と仕掛けを施したモノクル眼鏡『神通鏡』を掛け、白紙の紙を見つめる。
今まで私がドクトル・バタフライに描いてきた設計図。『ドラえもん』の『ひみつ道具』まで載っている冊子に困惑し、思わず彼の事を見上げる。
「こんなものを残すつもりなんですか?」と率直に問い掛けるとドクトル・バタフライは「いずれ『からくりサーカス』に君の子孫は関わるだろう。手助けするのは、当然だろう?」と、にこやかに笑った。
その答えはズルいです。
「……あの、機巧人形の項目に変なのが」
「ロボットは男の浪漫だろう?」
「私、女の子です」
「知っているよ?」
そういうのは、ちょっと不得手ですね。
そう伝えると珍しいものを見たという表情をドクトル・バタフライは浮かべる。いえ、ロボット工学など参考書や実際に作ったことはありますけど。
「流石にジャイアントロボは違うんじゃ」
「カッコいいのにダメかね?」
「大きすぎる物は却下します。だって、この冊子を子供や女の子が受け取ったら大きな物を作るときに怪我をしてしまうかも知れませんし」
私の言葉に納得してくれた彼に、ほうっと安堵の吐息を吐いて残りのページを捲っていく途中、ホムンクルス製造法を記したページを見つける。
「私の子供をホムンクルスに?」
「いや、そういうつもりじゃないんだ。折角なら残しておこうかと思ってね、我が息子たる爆爵にもホムンクルス製造法は残すつもりだが、本物は息子に綿って、これには『失敗である』と書き、錬金術に興味を持たないように仕向けるつもりだ」
「……要するに私の子供に嘘を教えると」
「だが、あくまで保険だぞ?」
そういうことではないんですよね。
まあ、どうしてもそうなるのなら仕方ないと割り切るべきなのでしょうが、母親に「今から子供に嘘を教える」と告げるのはお友達でも悪いことです。