お父様のおかげでしとりは寂しくなさそうですが、志葉家の来訪もなく、そろそろ実家に帰宅しないとお母様が怒ってしまいそうですね。
ドクトル・バタフライの怪しい『大百科』作りも監修する予定だったけど。私の体力では、まともに全てをこなすことは不可能である。
ふと人形の事で思い出した事がある。
「お父様、私が産まれる前に人形師に会ったと仰っていたときがありましたよね。お父様はその人の事を覚えていますか?」
「いきなり、どうしたんだい?」
「ん!どーしたのぉ?」
「少し気になることがあるんです」
「なら、パパも考えよう。……人形師か、確かに会ったことはあるがあれはパパがまだ能の役者に成り立ての公演巡りをしていたとき、凡そ三十年近く前だろうか」
三十年近く前ということはお父様は成瀬正二郎、そして
お父様は無自覚に『からくりサーカス』の物語に登場し、もしかしたら成瀬正二郎と一緒に懸糸人形の製作を手伝っていたという可能性も在り得る。
私の巻き込まれやすい体質はお父様の遺伝だったのでしょうか?と少しだけ悩みつつ、しとりにまた金平糖を買ってくれているお父様に「しとりが虫歯になっちゃいますよ?」と伝える。
「……僕には景の悩みは分からないけど。もしものときは父に任せると良い。僕は政界にも友人はいるし、最愛の娘と孫のためなら何でもするさ」
「じゃあ、姿お兄様を許して欲しいです」
「ダメだ。もう姿は本条家に婿入りしている上、無闇に呼び出してしまえばあの子の立場を悪くしてしまうかも知れない」
「やはり、そうですよね」
お父様の言葉も会いに行けない理由も分かりますけど。姿お兄様もお父様やお母様に会いたいと思っている筈なんです。ただ、ちょっと愛情が重すぎるだけで普通の夫婦なんですよ?
「景は昔から姿が大好きだねえ」
「敬愛はしていますけど」
どこか揶揄うようなお父様の言葉に返事を返した瞬間、戸を壊しながら左之助さんが入ってきた。ショックを受けたような表情で私を見詰めている。
「お、オレが一番好きなんだよな?」
「えと、はい、すきです」
お父様もしとりも見ているのに、いきなり恥ずかしい質問をしてきた左之助さんに戸惑いながらも小さく頷き、私は安堵する左之助さんに首を傾げる。
好きじゃなかったら、左之助さんにもらったチョーカーも着けませんし。左之助さんとの生活も過ごしていないです、それに嫌いなら夫婦にはなりませんよ。