いきなり二瓶鉄造の来訪には驚いたものの、彼はいつものごとく元気良く帰っていってしまった。あの人は本当に熊を撃っているだけなんですよね。
出来ることなら警察に捕まらず、平穏に生きて欲しいんですけど。そうなったら『ゴールデンカムイ』の「物語」はズレてしまうことになる。
そうなったら、とても困りますし。ひょっとしたら、しとりやお腹の子も巻き込まれて大変な事になるのかも知れませんからね。
それだけは絶対に阻止しなければいけない。
「左之助さん、少し良いですか?」
「なんだ?」
私の呼び掛けに応えてくれた左之助さんに、とある「ひみつ道具」を差し出す。ドクトル・バタフライにも内緒でこっそりと作り上げたもの。
「……赤鼻の人形?」
「その道具の名前は『
「押すとどうなる?」
「私をコピー、私の事を人形が真似て生まれますからその子に私の代わりを」
そう言葉を続けようとした次の瞬間、私の真横に物凄い勢いでパンチが通り抜け、壁が粉々に吹き飛び、吹き抜ける風が埃を巻き上げる。
「景、オレに玩具と生きろって言いたいのか?」
「ひっ!?や、ちがっ」
三白眼の様にぱっくりと縦に裂けた瞳孔が私を見詰め、僅かに立ち込める異様な気配に身体を強張らせて、なんとか弁解しようにも目が怖くて何も言えない。
ミシリと肩を掴む力で骨が軋み、カタカタと身体を震わせながら左之助さんを見上げ、どうにか許してもらう方法を考えるも思い付かない。
いつも優しくしてくれるから、こうして怒られたときの事を何も考えていなかった。どうしよう、どうしたら許してもらえるの?
「景、オレはお前を死んでも離すつもりはない。嫌だってんならマジで手足を切り落として、逃げられないように他のヤツも知らねえ場所に閉じ込めるぞ」
「ご、ごめんなさいぃ…」
今のは本気の言葉だと分かり、私は泣きながら左之助さんに謝る。不安を誤魔化すために、私の代わりに子供を見守って欲しかっただけなんです。
しくしくと涙を流しながら左之助さんに連れられて居間に戻るとタイミング悪くやって来ていたドクトル・バタフライが私と左之助さんを見比べる。
「……コホン、私も妻帯者だ。だが、Ladyを泣かせるのは感心しないぞ?」
「コイツが自分の偽者なんぞ用意しなけりゃオレも怒らねえよ。身重じゃなかったら馬鹿な事を考えられないようにも出来るんだがな」
「う゛ぅ゛、ひぐっ、ごべんねぇ……」
「ああ、もう泣きすぎだ。ほら、身体に障るから泣き止みなさい。左之助君、怒る理由は分かる。しかし、彼女も不安なんだよ」
「……分かってるよ。でもな、自分の代わりを用意するのはやめろ。オレはお前だから傍に居たいし、離したくねえんだよ」
そう言って左之助さんは頭を撫でてくれた。
うぅ、ごめんなさい。