ドクトル・バタフライ謹製の乳母車にひとえを乗せて上げ、しとりは左之助さんに抱っこして貰いながら、私達はドクトル・バタフライの研究所にお散歩がてらみんなで向かっていた。
理由は不破信二の結婚についてです。
「ひぃ、ひぃ…!」
「……景、やっぱり心配だからオレが押すぞ」
「ん!よわっちぃ!」
「うぅ、母の威厳がまた……」
乳母車のハンドルを左之助さんに代わって貰い、私は坂道の端に置かれた椅子に腰掛け、燦々と照りつける七月の太陽に少し溜め息をこぼす。
みんな、元気で羨ましい。
「景は体力がまた減ったな」
「歩けていた距離なんですけどねえ」
「おっきくなったらだっこしたげる!」
「う、うぅん、お母さんとしては流石に」
自分の娘に抱っこしてもらうのは恥ずかしくて、ちょっとだけ反応に困ります。いえ、抱っこしようと思ってくれたのは嬉しいですけど。
チラリとしとりを見たら自信満々に笑っていて、もしかしたら十歳を迎える頃にはもう私を抱っこして運んでしまえるのかも知れない。
しかし、不破信二の結婚相手はどちらなのだろう。犬から人へ?それとも人から犬へ?どっちの和風呪泉郷に落ちてしまったのだろうか。
流石の不破信二も動物的身体能力を持つ相手には悪戦苦闘するとは思いますけど。ドクトル・バタフライとススハム、そして私達に第三者として出席するように求めるのは絶対におかしい。
「左之助さん、左之助さんは私が動物になっても愛してくれますか?」
「ん?そうだな、景がもしも犬なら躾ける。猫なら出ていかないように閉じ込める」
「冗談でも酷いですよ、それは」
「そうか?」
私の言葉に首を傾げる左之助さん。
多分、さっきの例えは冗談ではなく本気の言葉なんでしょうが、年々左之助さんの私に対する執着心というか、私の事を閉じ込めてしまいたいという欲求が増している気がします。
「もし、そこの御家族や」
「はい、なんで…」
真っ白な犬が着物を着ていた。
その背中には淑やかに着物を纏う黒猫。人間っぽい雰囲気と気配は感じるけど。成る程、これはお見合い前日の顔合わせということですね。
「蝶野様の別宅は彼方でしょうか?」
「え、えぇ、そうです」
「おお、忝ない!」
えっちらおっちらと坂道を登っていく犬猫の後ろ姿を唖然と眺めながら私は左之助さんと一緒に「本当にしゃべるんだ」と感心してしまっていた。
「ねこさん!わんちゃん!かぁいいね!」
「そ、そうねえ」
不破一族はどうやら本格的にドタバタ青春ラブコメディーに巻き込まれる事が確定してしまったらしい。これ、どうなるのかしらね?