葵屋に残る御庭番衆と弥彦達、斎藤の部下を含めた最大戦力を京都に置き、オレ、剣心、斎藤、蒼紫、たった四人で比叡山中腹に居を構える志々雄真実のアジトの門前、六連ねの鳥居の前にオレ達は立っている。
「どうだ。罠の類いはあるか?」
「いいや、鳴子の跡も隠し罠の形跡もない。どうやら志々雄真実は本当に抜刀斎に対して、正々堂々とした決闘を申し込んできた様だな」
「フン。あれでも剣客というわけか」
「くっちゃべってねえで行こうぜ」
「左之、少しは警戒するでござるよ」
剣心や斎藤、蒼紫は罠を警戒しながら木造の廊下を歩いているが、オレが「ああいう矜持の高いヤツは罠を使ったりしないもんだろ」と言えば納得し、廊下の真ん中を歩いて進み始める。
「ようこそお待ちしておりました」
一つ目の扉を開けた瞬間、志々雄真実の傍に立っていた女が出迎えてくる。こういう類いの罠もあるのかと考えるが、オレは当然引っ掛かる訳はねえが、斎藤を見ると睨み返された。
なんだよ、お前も嫁さん居んだろ?
「阿呆が。俺は妻帯者だ」
「オレも近々祝言を挙げる予定だっての」
「生憎とその類いの誘惑は通じん」
「し、失礼ね!私は案内役として待っていただけよ!それに私が愛しているのは志々雄様だけ、アンタ達みたいなのは此方から願い下げだわ!」
プリプリと怒る案内役の女はオレ達に背を向け、さっさと廊下の奥に進んでいく。まだ名乗ってもいねえのに、図太い姉ちゃんだな。
そう密かに考えていると、いきなり後ろに振り返った姉ちゃんに睨まれた。斎藤や蒼紫もそうだが、オレの心を読めるヤツが多い気がするのは気のせいか?
オレの疑問に応える景は居らず、気がつけば二つ目の扉に到着し、志々雄真実曰く「決闘の条件は一対一、如何なる状況も手出し無用」とのことだが。
「やはり、お前か。相楽左之助」
巨大な不動明王像の背に背負い、荘厳な声で呟く声にオレは信じたくなかったという気持ちになる。だが、志々雄真実の破壊活動は止めなくちゃならねえ。
「嗚呼、アンタの相手はオレだ。だが、こんなのは信じたくなかったぜ。安慈」
「あら、知り合いだったの?」
姉ちゃんの言葉にオレは静かに頷く。
「……剣心、悪いが一番手はオレが貰う」
ゆっくりと階段を降りながら剣心や斎藤、蒼紫に横槍を入れるなと釘を刺し、静かに両腕を丹田の位置で交差させ、深く太い呼気を吐く悠久山安慈の目の前に立つ。
「相楽左之助、下諏訪での言葉は嘘偽りではないのだろう?だが、明治政府を嫌うお前がそちら側に着く理由を問うつもりはない。私は不動明王となりて、救えぬものを救うために救世を成す…!」
その凄まじい気迫に説得を止め、覚悟を決める。
「良いぜ、アンタの怒りを受け止めてやる!」
斬馬刀の鞘袋を取っ払い、担ぎ、構える。