和風呪泉郷は日本各地に点在し、北海道の函館にも何ヵ所か存在していたそうです。知らずに湯の川に行っていたら大変な事になっていましたね。
左之助さんは女の人や猫になってもカッコいいでしょうが、私みたいに小柄な身体だと老婆のような癖毛の猫になりそうでイヤですね。
「うちの直ぐ傍じゃねえか」
「ん!おふろ!」
「しとり、入っちゃダメって言いましたよね」
「ん!ん!」
パタパタと手を動かして何とか近付くことを許して貰おうとするしとりの頭を優しく撫でて押さえつけ、お膝の上に乗せて逃げ出せないようにする。
私の身体が弱いと子供ながらに分かっているしとりの優しさを利用するみたいで可哀想だけれど。私は大事な子供がわんちゃんや猫さんになるところは見たくないので我慢して下さい。
「あいやー、暫くぶりね。姿さん」
何故か呪泉郷の案内人のおじさんがいた。
いえ、そういうことを言っていたら千も万も行きそうな出来事は色々とありますし、こういう問題ばかりというわけでもない。
二年前に清国に行ったときも会いましたけど。この人って分裂していたり不死身だったりしませんよね?なんてことを考えながら、左之助さんを見る。
「おっ。この温泉卵、双子だ」
「それは双子の子供が溺れたという悲劇的な伝説を残している温泉でね。なぜか卵を浸けると黄身が二つになるよ。一個で二年個だからお得ね」
「しとりもたべたい!」
「ほれ、あーん」
「あー、んっ!!」
大きな黄身が二つも入った温泉卵を食べたしとりは私のお膝の上に座ったまま頬っぺたを押さえて美味しそうに頬を緩める。とても可愛くて素敵です♪︎
「フフ、良かったですね」
「景も食べるか?」
「い、いえ、そんむぐっ!?」
もっちりとした白身の弾力と濃厚な黄身の味が同時に口の中に広がっていき、モグモグと人前で食べさせてもらうという恥ずかしい事をしてしまった事実に顔が熱くなってしまいます。
決して、イヤなわけではないんです。
ちょっとだけ恥ずかしいと言いますか。
そう、羞恥心を煽られてしまうのです。
………自認すると余計に恥ずかしいですね。
「また変なこと考えてるのか?」
「むぐっ、んっ。ひふれいでふね」
口許を手のひらで隠しながら言い返す。
食べているときに話すのははしたないし、口の中が見えるのも下品なので隠すのは仕方ないのですが、左之助さんは私に温泉卵を押し込んで何をしようと?
「あー、んっ!」
「しとりも良い食いっぷりだな」
「おいひい!」
モグモグと私の真似をして口を隠すしとり。淑やかに育って欲しいと願う反面、もっと自由に生きてほしいと思ってしまうのは母親の願望ですね。