牛の姿になった案内人の後ろを歩きつつ、楽しそうに牛に股がっているしとりが落ちないように一緒に横向きで乗っている私の手を握り、ひとえを抱っこする左之助さんを見下ろす。
いつもより目線が高くて、ちょっと怖いです。
「景、そんなに強く握ってどうした?」
「……高くて怖いです」
「高いのもダメだったのか」
いえ、そういうわけではないんですけど。
やっぱり慣れ親しんだ目線より高すぎて、なんだか不安になってしまっただけなんです。左之助さんを見上げず、見下ろされずに目線を合わせることが出来るのは素敵だけど。
「ところで、これは何処へ?」
「モオォ」
「ん!りょかんだって!」
「旅館に戻るにしちゃ坂道だな」
確かに言われると不思議ですね。
旅館はもうちょっと温泉の近くだと思っているんですが、案内人の経営する旅館が山の上にあるのでしょうか?それとも私達を騙しているのか。
そう私達を乗せている牛になった案内人を見つめる。牛の考えは分かりませんから悩ましいですね。ドクトル・バタフライに『ほんやくコンニャク』でも作って貰うのもありかしら?
「オイ。牛、さっきからわざと畦道を通ろうとしてねえか?」
「ん!たんぼさん!」
「田んぼ?……居つの間にこんなところまで?」
少し考え込んでいる間に坂道を逸れて、明らかに旅館に繋がっているとは思えない場所に連れてこられた事を警戒しながら、私は左之助さんの手を借りて地面に降り、しとりを抱っこしてあげる。
うっ、また大きく重くなりましたね。
「母者、この先に落とし穴とカエルに変わる呪泉郷があったけど。コイツ、母者達をカエルにしようとしてたみたいだね」
「イボですか?アマですか?」
「ん!かえるさん!」
しとりが元気溌剌にそう叫んだ瞬間、牛になった案内人は直角的にカーブして物凄い速さで逃げていき、私と左之助さんはただただ呆然とその姿を静かに眺めることしか出来なかった。
まあ、誰も落ちていないのでセーフということにしましょう。お家に帰るには少しばかり遠くまで歩くことになるけど。私は途中で倒れたりしないだろうか。
「とんだ目に遭うところだったな」
「フフ、カエルになったら大変でしたね」
「そうだな。この時期だと何処ぞの破戒僧が摘まみ欲しさに食うかも知れねえかならな」
「破戒僧ですか?」
「おう。かなり美味かったぜ」
さっきカエルになり掛けていた私にそれを楽しそうに話すのは如何なものかと思うのですが、左之助さんはそういうことを気にしないんですね。
全く、酷い人です。